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百地章

【第584回・特別版】新元号は歓迎するも手続きに疑問

百地章 / 2019.04.02 (火)


国基研理事・国士舘大学特任教授 百地章

 

 「元号離れ」どころか国民的フィーバーの中で、新元号が発表された。平成に代わる新元号は「令和」である。出典は日本最古の和歌集『万葉集』であり、安倍晋三首相の説明によれば、「人々が美しく心を寄せ合う中で文化が生まれ育つという意味が込められている」という。
 非常に素晴らしい元号であり、国民の多くも歓迎しているようだ。新元号の下に、天皇と国民が同じ理想に向かって共に歩み、新時代を築き上げていきたいと思う。

 ●「皇室の伝統」と「元号法」に照らすと
 とはいうものの、今回、新元号が新天皇のご即位前に決定され公布されてしまったことについては、「皇室の伝統」から見ても、「元号法」の趣旨から考えても、疑問である。新元号が手放しで喜べないゆえんである。
 まず、「皇室の伝統」から見た疑問だが、奈良朝以後、歴代天皇は、ほとんどの方がご即位後に新時代に向けた理想と願いを込めて、新元号を定められてきた。この「代始改元」の特徴は、あくまで、新天皇がご即位後に、新元号を定められる点にある。つまり、ご即位に先立って新元号を定められた例など一つもない。にもかかわらず、今回は新天皇が即位される前に新元号が決められ、発表されてしまった。これは皇室の伝統に反する。
 次に、「元号法」の趣旨にも反する。
 元号法は、「元号は、皇位の継承があった場合に限り改める」と定めており、改元は「皇位の継承があった場合」つまり「皇位の継承後」に行われるとしている。にもかかわらず、今回は皇位の継承前に元号が決定され公布までされてしまった。これは、問題ではないか。
 第三に、「代始改元」の伝統、および明治以来の「一世一元」の伝統からすれば、新元号を公布されるのは、新天皇のはずである。にもかかわらず、今回は、今上陛下が二つ目の元号を公布されることになった。お一人の天皇が二つの元号を公布されるのは、「一世一元」の伝統に反しないだろうか。

 ●発表前のご報告は評価
 まだ詳細は不明だが、事前の報道によれば、新元号が正式に閣議決定される前に、内閣が今上陛下と皇太子殿下に新元号をお伝えしたはずである。少なくとも国民に発表する前に、報告されたことは間違いない。この点は、取りあえず評価してもよかろう。
 一つ心配なのは、新元号の発表と御代替わりが一か月ずれてしまったことから、国民生活に混乱が生じないかということだ。本来であれば、御代替わりと共に新元号の発表を聞きたかった。
 新元号は、5月1日から「施行」つまり、実際に用いられることになる。しかし、国民の中には早速、新元号を使い始めたり、どちらの元号を使ったら良いか迷ったりする人も出てくるのではないか。政府は、このような混乱が生じないように、しっかりと対策を講じて欲しいと思う。(了)