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西岡力

【第612回・特別版】韓国大統領の日本非難に反論する

西岡力 / 2019.08.05 (月)


国基研企画委員兼研究員・麗澤大学客員教授 西岡力

 

 8月2日、我が国政府が韓国を輸出優遇国から除外する措置を決めたのに対し、韓国の文在寅大統領は「非常なる外交・経済状況」が発生したとして臨時閣議を主宰し、冒頭発言で日本を非難した。しかし、その主張は事実関係を歪曲し、国際法の解釈をねじ曲げるものだった。
 文大統領は日本の措置を「最高裁の強制徴用判決に対する明白な貿易報復だ」とし、「韓国経済を攻撃し韓国経済の未来の成長をさえぎって打撃を与えようとする明確な意図を持っている」と断定した。しかし、繰り返し我が国政府が表明しているように、今回の措置は韓国政府の戦略物資管理に対する信頼の低下を理由とする優遇措置除外であって、「報復」ではないし「打撃意図」もない。今回の措置の結果、韓国は米国や一部欧州国家と共に受けていた優遇措置から外されたが、それでも台湾などに比べると優遇される地位にある。

 ●戦略物資の不正輸出急増
 文政権下で戦略物資不正輸出が激増していることを最初に摘発したのは与党「共に民主党」の朴釘議員だった。聯合ニュースは昨年10月10日、朴議員が政府から提出させた資料を元に、「戦略物資無許可輸出の摘発金額、最近3年間で24倍増加」という記事を配信し、2015年に比して2017年の摘発金額が541万ドルから1億3202万ドルへ24倍、件数が14件から48件へ3倍に急増していることを告発した。同記事で朴議員は「不法戦略物資輸出は我が国の安全保障は勿論、世界の平和と安全にも直接間接に影響を及ぼし得る」と警告している。しかし、2018年も摘発件数は41件で、状況はあまり改善されていない(金額は1319万ドル、詳しくは月刊正論9月号拙稿参照)。その上、過去3年間、文政権は我が国が求める戦略物資不正輸出摘発のための協議に応じていない。
 文大統領は日本の措置を「『強制労働禁止』と『三権分立を基礎にする民主主義』という人類の普遍的価値と国際法に違反する」と非難した。だが、戦前から日本が加盟していた国際労働機関(ILO)条約も戦時労働動員は禁止事項の例外として認めていた。日本の最高裁では元朝鮮人戦時労働者の訴えは全て退けられている。日韓の最高裁判決が衝突する事態が起きているのだが、そのようなことを防ぐため国際法では、条約は司法を含む国全体を拘束するという原則が確立されている。

 ●外交秩序覆す文政権
 文大統領は「加害者である日本が正邪を逆転させて、大きな声で主張をしている状況を座視しない」と言うが、国際法の原則は、戦争や紛争の処理は条約で行い、条約締結後は外交関係に過去の出来事を持ち込まないことだ。これまで、我が国政府が繰り返してきた謝罪や人道的措置は「加害者としての責任」を認めたのではなくあくまでも政治的配慮だった。しかし、条約による処理という外交秩序そのものを覆そうとする文政権に、我が国は信頼を基にした特恵を与えることができず、是々非々で普通の国として対するしかない。(了)

原語「賊反荷杖」は、賊が反対に罰を加えるという、物事が逆転したありさまの意。「盗人猛々しい」「開き直る」という訳語とは若干ニアンスが異なる。