公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

太田文雄

【第629回】習主席の国賓訪日は再検討を要す

太田文雄 / 2019.10.28 (月)


国基研企画委員兼研究員 太田文雄

 

 24日にペンス米副大統領が、中国に関する講演を約1年ぶりに行った。中国の内政外交を包括的に批判した昨年10月の演説以降、中国の行動はますます攻撃的かつ安定を損ねるものになってきたと指摘し、特に大規模デモに揺れる最近の香港情勢に危機感を示し、中国に自制を要求した。日本との関連では「中国の挑発に対する(航空自衛隊の)スクランブル回数は2019年に過去最多を記録した。中国は海警船を尖閣周辺海域に60日以上連続で派遣した」と述べた。
 米国だけでなく、今年8月にフランスで行われた先進7カ国(G7)首脳会議でも、香港情勢をめぐり中国への懸念が表明された。自由民主主義諸国の対中認識が厳しくなる中で、日本が来春、習近平中国国家主席を国賓として迎えれば、正常な国とは思われなくなる。政府は再検討をすべきだ。

 ●日本を突破口に孤立脱出
 中国が民主化運動を武力鎮圧した1989年の天安門事件の後、世界中から制裁を受けて孤立していた中国に手を差し伸べたのは日本であり、1992年に天皇陛下の訪中を実現させた。しかし、当時中国外相だった銭其琛氏は回顧録で、西側の経済制裁において「日本は最も結束が弱く、天皇訪中は西側の対中制裁の突破口という側面もあった」と書いていた。今、日本は同じわだちを踏もうとしている。
 中国を専門とする国分良成防衛大学校校長は「習氏は歴史問題への言及を抑制する傾向にある」と述べている。しかし、日本軍の生物兵器研究・開発機関であった731部隊に関して、習主席は数年前、ハルビン市にある記念館を「小さすぎる」として、その大拡張を命じている。また26日、北京での東京—北京フォーラムで王毅外相も歴史問題に言及した。

 ●都合の悪い日本人学者を拘束
 そして最近、中国社会科学院の招待で訪中した北海道大学教授が中国で拘束された。この教授は2007年から2016年まで日本の防衛研究所に勤務し、戦前の日中関係を専門としている。
 習近平主席は「抗日戦勝記念日」の式典を大々的に挙行し、あたかも共産党が日本軍に勝利したかのようなプロパガンダを行っているが、日本軍が戦ったのは国民党であって、共産党の八路軍はむしろ日本軍に国民党の機密情報を提供していたなどとする事実を、中国語で公表することは中国共産党にとって余程好ましくなかったのだろう。
 また、拘束された教授には「中国共産党情報組織発展史」や「党を保衛する公安組織」のように党の情報組織や宣伝戦、メディア戦に関する論文もある。共産党の情報組織や公安機関の活動を明らかにする研究も中国にとって都合が悪かったに違いない。
 3月の参院予算委員会で安倍晋三首相は「日中関係は完全に正常な軌道に戻った」と述べたが、中国共産党の本質は全く変わっていない。最近の日本の世論調査で、中国に対する否定的見方が増加している事実がそれを如実に物語っている。(了)