公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

奈良林直

【第872回】世界の原子力回帰が鮮明に

奈良林直 / 2022.01.11 (火)


国基研理事・東京工業大学特任教授 奈良林直

 

 英グラスゴーで昨年開催された国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)では「脱石炭」に40カ国余りが合意したが、中国や東南アジアで建設中の石炭火力発電所は200カ所に迫る。一方、天然ガスや原油の値上がりは著しく、深刻な電力不足とエネルギー価格の高騰が欧州経済に影を落としている。我が国も事情は同じだ。ドイツをはじめとして、太陽光・風力発電で効果的に二酸化炭素(CO2)の排出削減に成功した先進国は存在せず、フランスを筆頭に世界は原子力回帰を鮮明にした。

 ●フランスが主導
 ドイツのメルケル首相が退陣し、再生可能エネルギーを強力に推進するリーダーが不在となった。再エネの比率が20%に達した日本では、大雪の中で太陽光発電の出力が低下し、電力の予備率が3%を下回る電力危機が毎日のように続いている。再エネの比率が40%を超えたドイツの1キロワットアワー(kWh)当たりのCO2排出量は日本と大差が無い。欧州では風力発電のための風が弱くなり、電力不足とエネルギー価格の高騰に陥っている。再エネの脆弱性の認識は急速に広まり、フランスを筆頭に原発建設計画が具体化した。
 フランスは、77%を占める原子力発電比率を2025年までに50%に減らす計画を撤回した。フランス電力(EDF)は、欧州加圧水型炉(EPR、電気出力165万キロワット=kW)を世界中で建設していくため、チェコ、ポーランド、インドなどの複数の大手関係企業と協力協定を締結したと発表した。フランス国内にはEPRを6基建設する。英国も原子力エネルギーの拡大を決定し、英国の電力会社であるEDFエネルギー社がEPRを多数導入する。原子力発電の導入を検討しているポーランドに対しては、EDFが4~6基(660万~990万kW)のEPRを2~3カ所に建設することを提案している。
 一方、わが国から日揮とIHIも出資している米ニュースケール社の小型モジュール炉(SMR)は、米貿易開発庁の開発支援でルーマニアに建設されることになった。同様に、米GE日立ニュークリア・エナジー社は、小型モジュール炉の「BWRX-300」の商業化をカナダで促進するため、BWXTカナダ社と設計・製造に向けた技術協力と調達等で合意した。

 ●EUは原発への投資促進へ
 さらに、欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会は1月1日、原子力発電を地球環境にとって持続可能な経済活動と判定し、原発への投資を促進する方針を打ち出した。
 EUは2050年までのカーボンニュートラル(CO2など温室効果ガス排出量の実質ゼロ)を目指し、持続可能な経済活動を分類する「EUタクソノミー(分類)」の制度の下で、原子力や天然ガスの扱いを検討してきた。
 欧州委員会は、再エネを中心とした未来のエネルギーへの移行を促進する手段として、原子力や天然ガスにも一定の役割があるとの見解を示した。脱原発を進めるドイツが反発しているが、今月末をめどにこの案が了承されれば、原子力が投資や融資の対象になる。(了)