公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

田久保忠衛

【第914回】憲法改正の好機が到来した

田久保忠衛 / 2022.05.02 (月)


国基研副理事長 田久保忠衛

 

 国際情勢の変化は日本に憲法改正の必要を促している。ウクライナ戦争によって北大西洋条約機構(NATO)諸国はこぞって防衛面の強化に乗り出し、とりわけ軍事忌避の傾向が強かったドイツは国内総生産(GDP)の1.5%だった防衛費を一挙に2%以上へ引き上げることになった。日本の防衛努力強化の動きに敏感な米国の一部リベラル派に存在した「軍国主義復活」警戒論も、当面は静かである。憲法改正はいま3度目のチャンスを迎えている。

 ●逃した2度のチャンス
 最初のチャンスは1979年12月のソ連のアフガニスタン侵攻で訪れた。当時のカーター米大統領は80年1月の一般教書演説で、ペルシャ湾岸地域を支配しようとするいかなる外国勢力の試みも「米国の死活的利益に対する攻撃と見なす」と述べ、軍事力を含む必要なあらゆる手段で撃退するとの強い姿勢を示した。同時期に訪日したブラウン米国防長官は、大平正芳首相、大来佐武郎外相、久保田円次防衛庁長官の3人に対して、日本も「着実で顕著な」防衛努力をしてほしいと要請した。
 3カ月後に中国を訪れた中曽根康弘衆院議員(後の首相)は、伍修権・人民解放軍副参謀総長と会談した。その際、同副参謀総長は、日本の防衛費が国民総生産(GNP)の1%以下なのは少なすぎるので、2%に増やしたらどうかと提案した。あくまでも個人的見解と断っていたが、ソ連との対立を深めていた中国が本音を語ったことに疑問の余地はない。
 米中両国が世界戦略の見地から日本に防衛費の大幅増を求めた。憲法改正のまたとない機会だったのではないか。
 2度目のチャンスは、クウェートに侵攻したイラク軍を米国主導の多国籍軍が撃退した1991年の湾岸戦争だった。30カ国が参加したこの「砂漠の嵐」作戦に、日本は130億ドルを拠出しただけで、血も汗も流そうとしなかった。石油輸入の70%以上を湾岸地域に依存していた日本が安全保障を他国に任せ、カネだけ払って済まそうとした態度には、国際的に強い批判が相次いで寄せられた。これを改憲のきっかけとし、国際的貢献に乗り出す好機だったのではないか。

 ●ドイツの大転換に倣え
 今回のウクライナ戦争は、日本の防衛面での欠陥を是正し、ドイツに倣って「普通の国」への脱皮を試みる絶好の機会ではないか。これまで日本の改憲の動きに神経質になりがちだった米国の一部リベラル派は沈黙を守っている。ウクライナ戦争で戦略的打撃を受けたロシアが経済面で中国に依存する関係になり、ユーラシア大陸に一大覇権国家が誕生する事態を目前にして、「日本が軍国主義を復活させる」などと視野狭窄的な議論を弄んでいる時期ではないのだろう。
 日本と同じ敗戦国で、ヒトラーの悪夢に悩まされて軍事を忌避してきたドイツは、東西両ドイツの統一、経済と軍事のバランスが取れた「普通の国」への脱皮という二大事業を成し遂げた。機会を見逃さないドイツを日本の政治家は見習うべきだろう。(了)