公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

工藤豪

【第1022回】少子化対策における隘路

工藤豪 / 2023.03.13 (月)


国基研企画委員・日本大学文理学部非常勤講師 工藤豪

 

 厚生労働省は2022年の出生数(速報値)が79万9728人と、1899年の統計開始以来、初めて80万人割れとなったことを発表した。2015年には100万人を維持していたが、出生数の急減に拍車がかかっており、政府は子ども・子育て支援の強化を検討している。

 ●欠けていた男女双方への配慮
 これまで国や自治体は積極的な少子化対策を行ってこなかったのか?十分な財源が投じられたとは言えないが、子ども・子育て支援が大きく前進したことは事実である。保育の量的拡大、病児・一時保育など多様なサービスの充実、地域子育て支援センターの整備、育児休業給付金の拡充、幼児教育・保育の無償化、そして子ども医療費助成により、入院・通院に係る負担は大きく軽減された。にもかかわらず、出生数の急減に歯止めがかからないのは、これまでの重点施策に加え、新たな方向性を導入する必要があることを示す。
 少子化対策の展開を踏まえると、これまでの取り組みは著しくバランスを欠いてきた。まず、第一に「女性」に重きを置き、「男性」への配慮が欠如していた。妊娠・出産は女性に特有なことで細やかな配慮が求められるが、不妊の原因における約4割は男性が関与している。また、少子化の主要因は未婚化とされるが、なぜ男性が結婚しないのか、結婚できないのか、十分に検討されてきたとは言い難い。正社員に比べて非正規雇用の男性の有配偶率が低いことや、低所得男性において交際への意欲が低いという指摘は注目すべき点である。
 第二に、出産育児期において「就業継続を希望する女性」に重きを置き、「子ども・家庭中心の生活を希望する女性」への配慮が不足していた。専業主婦世帯が減少し、共働き世帯が増加しているものの、その増加はフルタイムではなくパート世帯の増加が多くを占める。意識調査をみても、未婚女性の理想ライフコースとして「結婚して子どもを持ち、仕事を続けて子育てと両立させる」は増加傾向であるが約34%、「結婚か出産を機に退職し、子育て後に再就職する」と「結婚か出産を機に退職し、その後は専業主婦になる」は共に減少傾向であるが合わせて約40%、現時点でも後者の方がやや多い。女性の意識は拮抗しており、どちらのタイプの女性にも十分な配慮が求められる。

 ●避けて通れない未婚化対策
 出生数の急減を緩和させるために避けては通れないのが「結婚」へのアプローチである。日本は婚外子割合が約3%と世界の中で例外的に低い状況であり、生まれてくる子どもの97%は結婚した夫婦から生まれている。結婚は個人の自由な意思・選択の範疇であり、積極的な公的介入をすべきでないという考え方はその通りかもしれないが、その場合、未婚化対策を抜きに少子化を是正することは困難であることとセットで議論すべきである。
 今、必要なことは、結婚を積極的に支援して少子化を是正するのか、結婚後の子育てや働き方への支援に特化した政策を続けるのか、真摯に問うことではないだろうか。(了)