2022年10月ごろ、米国がロシアの極秘の通信を傍受したところ、ロシア軍の内部で核兵器の使用について頻繁に議論が行われていた、と米紙ニューヨーク・タイムズが3月9日に伝えた。米CNNテレビも同日、バイデン政権当局者の話として、この時期、ロシアが戦術核兵器でウクライナを攻撃する可能性を同政権が懸念していたと報道している。事実、プーチン・ロシア大統領は2022年9月21日の国内向けテレビ演説で、核兵器を使用する用意があると警告していた。
戦術核兵器が使われかねない構図は、我が国周辺でも現実化しつつある。中国は既に500発超の核弾頭を保有しており、予測以上の速度で増産している。近いうちに米国と中国の核バランスが均等となり、中国が台湾、日本に対し、戦術核を使うとなった場合、これを抑止することは困難となる。
●政治家・国民に足りない危機認識
普通の国ならば、迫り来る核の脅威に対し、どのように対応するのか国民的な議論がなされるのだろうが、我が国は被爆国としての強烈な体験から、核廃絶の理想論が先行し、核について触れたくないという空気が消えない。過去に安倍晋三元首相が提唱した核共有の議論が自民党内においてさえ封殺されたことを考えると、政治家の危機認識に対しても疑問を抱かざるを得ない。
重要なことは、核兵器が大量に存在する現実、そしてこの地球上から核兵器をなくすことが極めて困難な現実を踏まえ、二度と我が国に核攻撃をさせないことを、日本としてどのように担保するかである。
可能性があるかないかはともかく、究極の目標としての核廃絶を否定するものではない。また廃絶に至るまでの道程として、地球全体からいかにして核兵器を減らしていくかの努力を重ねることも不可欠である。しかし、今重要なことは、我が国に対し核兵器が使われる現実味が増大しているとの危機認識を国民が共有することである。
●今こそ必要な核抑止の議論
米国一国のみでは中国を抑止できなくなる日が近づきつつあることに加えて、中国、ロシア、北朝鮮の核保有3か国を同時に抑止することが困難であることが、米国で再三にわたり指摘されている。その中で、我が国が米国との関係において、どのように核に対する抑止力を担保していくのかを議論すべき時である。
訪米する岸田文雄首相は、4月10日にバイデン大統領との首脳会談に臨み、11日には上下両院合同会議で演説する。首相自ら、核の脅威から目を背けず、核抑止に対する日本の意志、そして日米同盟の更なる緊密な連携に対する日本の考えを明確に示すことを期待している。(了)