トランプ米大統領が先週末、ウクライナのゼレンスキー大統領と激しく仲たがいしたことから、ウクライナを見限るとの憶測が流れるが、早計過ぎる。
トランプ氏がゼレンスキー氏をホワイトハウスに招待した目的は、ウクライナ産鉱物資源の権益分与協定締結のためだった。首脳会談決裂で署名はたなざらしにされたが、会談前にトランプ氏は、ウクライナの鉱物を人工知能(AI)や軍事兵器に利用できるとし、署名式は「興奮する瞬間だ」とはしゃいでいた。トランプ氏はその前に「AIで世界覇権を握る」とうたった大統領令に署名済みだ。
●鉱物資源に着目
ウクライナには、AI用半導体やハイテク兵器製造に欠かせないレアアース(希土類)と、リチウム、チタンなどレアメタル(希少金属)が豊富で、チタンは米国需要の40年分もあるという。ウクライナ以上に重要鉱物資源が豊富とみられるロシアのプーチン大統領とも、ウクライナ和平工作と同時並行で経済開発協議を進めている。トランプ氏は重要鉱物資源の宝庫とみなされるデンマーク領グリーンランドにも目を向ける。
覇権国米国が圧倒的な世界シェアを持つのはAI用など半導体、それに戦闘機やミサイルなど兵器だが、アキレス腱がある。中国はレアアースやレアメタルの生産で圧倒的なシェアを持つ。これらのサプライチェーン(供給網)を独占し、西側企業に対して輸出規制で脅し、先端技術の提供を強要する。レアアース産業を厳格に全面管理する一方で、2023年から昨年にかけて、中国の習近平政権はガリウム、黒鉛、アンチモンの輸出を許可制にした。
習政権はインフラ投資の約束と引き換えに、巨大経済圏構想「一帯一路」に資源国を取り込んできた。米国が主導してきたモノもヒトもカネも国境を越えて自由に移動するグローバリズムは、皮肉にも強権・独裁国家、中国の膨張を助長してきたわけである。トランプ氏は自由、民主主義、人権尊重の理念はそっちのけで、自国権益優先のディール(取引)を対外政策に持ち込む。これだと戦後国際秩序は形骸化するとの懸念も生じる。しかし、相手の中国はやわではない。
●戦争早期終結が必要
バイデン前米政権は主要7カ国(G7)共同声明で中国の「経済的威圧」行為を非難したが、習氏は馬耳東風だ。米国第一主義のトランプ氏は最大で60%の対中追加関税を用意するばかりではない。ウクライナ、ロシアの重要鉱物資源を確保も急ぐ。そのためにはウクライナ戦争の早期終結が必要なのだ。トランプ氏が和平工作をあきらめるはずはない。(了)