公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

岩田清文

【第1266回】時代遅れの戦略文書を年内改定せよ

岩田清文 / 2025.06.30 (月)


国基研企画委員・元陸上幕僚長 岩田清文

 

 北大西洋条約機構(NATO)は6月25日の首脳会議で、2035年までに加盟各国の防衛支出を国内総生産(GDP)比5%に引き上げる目標を承認した。これに先立つ5月31日、ピート・ヘグセス米国防長官はアジアの同盟国に対し、防衛費をGDPの5%へ向け引き上げるよう強く求め、中国による台湾侵攻の可能性に備えるため、より強い危機感を持つ必要があると警告した。

 ●防衛費の数字は後からついてくる
 この動きに対し、林芳正官房長官は6月26日の記者会見で、欧州の動きを注視すると強調。その上で、日本の防衛費について「大事なのは金額ではなく防衛力の中身だ」と従来の見解を繰り返した。確かに、防衛費を数字ありきで増額することは理に合わない。石破茂首相が23日の記者会見で述べた通り、「必要なものをきちんと積み上げていくこと」が重要だ。政府はまさにその「積み上げ」の根拠となる、国を守る「戦略」を策定し、防衛費増額の必要性について国民の理解を得ることが不可欠だ。
 ヘグセス国防長官は既に5月2日、米国の国家防衛戦略を8月31日までに策定するよう国防総省に指示している。日本も当然、米国の動きと連携して、遅くとも年末までには国家安全保障戦略はじめ戦略3文書を改定し、2026年以降整備しなければならない防衛力を明らかにすべきだ。そしてその結果としてGDPに占める防衛費の数字を示すことができる。

 ●米国つなぎ留めに知恵を絞れ
 2022年末に策定した戦略3文書は、ウクライナ戦争や中国の急激な軍拡、そして自国優先のトランプ政権の誕生により、時代遅れのものとなっている。当時から大きく変化した戦略環境に応じ、2027年までを対象としていたこれまでの計画を前倒しし、2026年以降、新たな戦略に基づく防衛力整備を速やかに再スタートさせるべきだ。
 この際重要となるのは、宇宙、ドローン、人工知能(AI)、防空などの分野において優越を獲得できる能力、及び米国をして日本との同盟が「得」と思わせるよう米国を巻き込む具体策が重要である。特にエルブリッジ・コルビー国防次官が3月5日に重要と指摘した、日本に平素から駐留する米軍及び有事展開してくる米軍部隊の行動が効果的となる具体策は日米の抑止力を高めこととなり、日米ともに有益となる。
 これら防衛能力の中核となる防衛支出に加え、関連するインフラやサイバーセキュリティーなど幅広い分野への支出を加えることにより、米国からの防衛費増額要求にも対応することが賢明だ。(了)