公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

有元隆志

【第1267回】首相は参院選で防衛費増額を語れ

有元隆志 / 2025.06.30 (月)


国基研企画委員・産経新聞特別記者 有元隆志

 

 北大西洋条約機構(NATO)とインド太平洋地域のパートナー国との協力深化に向けて、日本が主導的役割を果たしていくのではなかったのか。石破茂首相はオランダ・ハーグで6月24~25日に開催されたNATO首脳会議に招待されていたにもかかわらず、直前で参加を見送った。
 NATO諸国の間では従来ドイツに代表されるように中国の巨大市場を重視する傾向があった。そこで日本政府はNATOとの安全保障上の連携強化に乗り出し、岸田文雄前首相も3年連続でNATO首脳会議に出席した。
 石破首相もその路線を踏襲し、4月に来日したNATOのルッテ事務総長に「日本などインド太平洋パートナーとNATOの間の安全保障協力の必要性は更に高まっている」と強調した。ルッテ事務総長もそうした石破首相の姿勢を「歓迎する」と述べたばかりだった。

 ●NATO欠席で存在感示せず
 日本政府当局者によると、日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランドのインド太平洋パートナー4カ国(IP4)は今回、トランプ米大統領やNATO事務総長との会合を調整したが、石破首相が現地に滞在するタイミングではトランプ大統領との会合は難しいと判明し、石破首相は参加を取りやめたという。
 IP4のうち豪州と韓国の2カ国が相次いで首脳の不参加を決めたこともあるが、韓国や豪州の首脳がいないからといって、石破首相は岩屋毅外相に任せるのではなく、自ら出席し日本の存在感を示すべきではなかったのか。

 ●「2プラス2」も延期
 今回の会議でNATOは、国内総生産(GDP)に占める防衛費の割合を5%に引き上げる目標を決めた。米国防総省が日本を含むアジアの同盟国に対しても同様に5%にする必要があるとの見解を示すなか、NATO首脳会議に出席して日本の防衛費増額が焦点となるのを避けようとしたとの見方も出ている。
 7月1日に米国で予定されていた外務・防衛担当閣僚による日米安全保障協議委員会(2プラス2)の会合も見送られた。英紙フィナンシャル・タイムズは米政府が日本に防衛費増額を求めたためと報じた。日本側は、具体的な増額要求はなく防衛費問題が2プラス2延期の理由ではないとしている。
 仮にそうだとしても、日本を取り巻く安全保障環境が「戦後最も厳しく複雑なものになっている」(令和6年版防衛白書)なか、石破首相をはじめ日本政府はさらなる防衛費増額が不可避であることを正面から国民に訴えるべきだ。
 防衛費問題は増税と直結するので7月の参院選前に話題になることは避けたいというなら、これほど国民を愚弄する話はない。選挙戦で防衛力強化のため防衛費の増額は避けられないと主張することで、国民を説得し、支持を得る機会とすべきではないのか。(了)