北海道大学大学院工学研究院教授 奈良林直
東京電力福島第一原子力発電所の事故は、1号機から4号機まで4基の原子炉の事故が同時進行するという未曾有の事態となった。地震で外部電源が喪失した後、速やかに非常用ディーゼル発電機が起動し、緊急炉心冷却系が正常に作動し、原子炉の冷却が開始された。
しかし、高さ15mもの大津波の来襲により、タービン建屋の地下1階にあった非常用ディーゼル発電機が浸水するなどしたため、全ての交流電源喪失という深刻な状況に陥った。
1号機は3月11日の夜半には炉心が損傷して水素を発生、さらに炉心溶融に進展した。格納容器の過大圧力による水素や放射性物質のリーク(漏れ)が発生し、水素爆発や火災により放射性物質が外部に放出され、周辺地域に甚大な影響を与えた。1号機の水素爆発により放射性物質が付着したがれきが飛び散ったことも2号機、3号機の事故対応を困難にした。
1号機の事故を収束させれば、注水のためのホースの設置に手間取ることもなく、2号機から4号機の全ての事故も防止できたのだ。
事故原因は複合的
今回の事故はさまざまな要因が重なって起きた。すなわち、①地震によって、敷地内にあった送電線の鉄塔が倒壊し、受電設備も壊れて、外部電源が喪失した、②非常用ディーゼル発電機が津波に対して無防備であった、③駆けつけた移動電源車の電圧やプラグが原発の仕様と異なり使えなかった、④1号機に備わっていた非常用復水器(原子炉の蒸気を冷却して水にして炉心に戻す復水器)の機能を十分に生かせなかった、⑤全交流電源喪失の中で、バッテリーが放電していく間に制御盤が誤信号を出して非常用復水器を停止させ、原子炉の水位低下とそれに伴う炉心損傷・炉心溶融を発生させた―ことなどである。
実証された対策の有効性
この貴重な教訓を基に、他の原発の安全性を確保するため、原子力安全・保安院から緊急安全対策の指示が各電力会社に出された。欧州で実施しているストレステストは日本からの事故情報に基づいて策定されたものであり、実施内容を精査したところ、保安院の安全対策の指示と一致している。
具体的には、①敷地内鉄塔・送電線・受電設備の耐震性向上、②非常用ディーゼル発電機や電源盤などを設置している建物の水密性確保(海水侵入防止)、③移動電源車の配備と給電・注水訓練の実施、④冷却・注水手段の多様化と迅速化による炉心冷却の確保、⑤バッテリーの高所への追加設置と充電機能の強化―などである。
これらの対策は女川、福島第二、東海第二など、津波を受けた発電所で炉心冷却を確保したことで有効性が実証されている。これらの事実や対策としての有効性を本来政府がきちんと分かりやすく国民に説明すべきであるが、全くその責任を果していない。
マスコミは再生可能エネルギーとしての太陽光や風力を礼賛する報道に終始しており、国民に錯覚を与えている。ドイツにおける再生可能エネルギーは確かに18%まで増えたが、太陽光はわずか2%しかない。10年間の全量買い取り制度を行ってもこの程度でしかない。
緊急安全対策を施した原発はすぐにでも運転を再開すべきだし、ましてや長期の試運転を行った原発は速やかに営業運転に移行すべきである。熱中症や大規模停電、経済の対外競争力低下といった新たなリスクを生むべきではない。(了)
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第102回:安全対策済みの原発は運転を再開せよ(奈良林直)