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冨山泰

【第197回】米中2極体制を日本がはね返す手はあるか

冨山泰 / 2013.06.10 (月)


国基研企画委員 冨山泰

 

 6月7~8日に米カリフォルニア州の保養施設サニーランズで行われたオバマ大統領と習近平国家主席(共産党総書記)による米中首脳会談は、21世紀の国際社会が米中主導の2極体制で運営されかねず、日本は脇役に甘んじることを強いられる可能性が否定できないことを思い起こさせた。

 ●「新型の関係」で意気投合
 習主席は7日の第1回会談後の記者会見で、既存の大国と新興大国が衝突を回避して協力する「新しい型の大国関係」を米中が構築すべきだとの持論を繰り返した。これに対してオバマ大統領は「新しい型の米中関係」を発展させることは可能だと述べるとともに、「(米中は)紛争より協力することで繁栄と国民の安全という目標を達成できる」と語り、息の合ったところを見せた。オバマ大統領はまた、「米中関係を新しい段階に引き上げるまたとない機会」であり、「この機会を逃さない」と言った。
 米国と中国が協力しなければ解決しない地球規模の問題や地域問題があるのは事実であろう。その典型は気候変動の問題であり、温室効果ガス(二酸化炭素換算)の国別排出量が世界一の中国と、国民一人当たりの排出量が世界一の米国は今回の首脳会談で、温室効果が極めて高い代替フロンの一種ハイドロフルオロカーボン(HFC)の排出削減で協力することに合意した。
 米側によると、両首脳は、北朝鮮の核兵器保有を許さず、非核化達成へ協力することでも一致した。中国はエネルギー資源の提供などを通じて北朝鮮経済の生命線を握っているので、中国が本気になれば北朝鮮に圧力をかけることができる。しかし、米中主導の対北朝鮮政策では、日本が核問題と並んで重視する拉致問題の解決が置き去りにされる危険もある。

 ●サイバー問題で価値観の違い露呈
 米中首脳会談では、中国から米企業を狙ったサイバー攻撃の問題をめぐり、激しい応酬があったようだ。オバマ大統領が具体例を挙げて中国からのサイバー攻撃を非難したのに対し、習主席は中国当局の関与を認めず、中国もサイバー攻撃の犠牲者だと言い張った。サイバー攻撃を通じた企業秘密の窃取は、中国が公正な産業競争のルールを守らない国であることの表れであり、価値観の違う米中両国の協調に限界があることを物語っている。
 米中協調から取り残されかねない日本が巻き返すチャンスはここにある。そもそもオバマ大統領がカリフォルニアへ出向き、習主席と延べ2日間8時間ものざっくばらんな会談を設定し、個人的関係の構築を目指したのは、中国が経済大国、軍事大国に成長しただけでなく、習主席が今後10年間は中国の最高指導者であり続けることをほぼ約束されているためでもある。日本でも、7月の参院選を経て安倍晋三政権が安定し、アベノミクスの成功で日本経済が力強さを回復し、防衛力の整備を着実に実行して米国の国防費削減の穴を日本が多少とも埋めることができれば、オバマ大統領は価値観を同じくする同盟国日本の指導者を軽々しく扱うわけにいかなくなるのではないか。(了)