安全保障・防衛関係に多くを投資する国は、相対的に強く、経済も繁栄することを歴史は示している。今日、その最たる例はイスラエルである。イスラエルの成功企業の90%は軍事的な研究開発の副産物である。日本でも1945年以前は、経済の原動力は軍備拡張とつながっていた。今日では、韓国、台湾、中国、ロシアなど日本の主要な競争相手はどこも本格的な防衛産業戦略を持っている。
●戦後の産業政策の限界
安倍晋三政権の新国家戦略における最大の問題は、為替レート、税制、インフレ率など経済手段を操るだけで経済を回復できると側近が考えていることである。7月26日、シンガポールでの講演で安倍首相は「ここしばらく日本では、弱い経済が弱い政治を生み、それが経済をまた弱くし、外交・安保まで弱体化が及ぶという、『負の連鎖』が続いていました」と述べた。しかし首相は、講演で安全保障・防衛関係の研究開発に一度も言及しなかった。
戦後、連合国軍によって押し付けられた憲法のせいで、日本は60年間にわたり国防省も高度で革新的な軍事技術も持たなかった。防衛機構を欠くために、日本は通産省(後の経済産業省)を産業政策の責任官庁として使うことを試みてきた。この戦略には重大な限界があることを実績が示している。1945年から1980年代まで日本は外国の技術を借用して経済を成長させた。日本人のチームワーク、品質管理、設計技能のおかげでしばらくうまくいったが、そうした技術は徐々に時代遅れになった。過去20年間、日本国内の研究開発では独創的なものがほとんど生まれず、その結果、大半の日本企業は業績を落とし、国際市場のシェアを失った。
●防衛費を倍増せよ
今後とも中国は、日本に大きな政治的、経済的、軍事的脅威をもたらすだろう。しかも、米国の対日支援がこれまで通り続く保証はない。米国は日本より中国をアジアのパートナーにしたいと考えている節がうかがえる。そして、大方の推定によれば、中国は国民総生産(GNP)の10%を防衛関連の産業開発に使っている。
残念なことに、安倍首相は大国関係の現実を学ばず、日本の将来に関する米国の約束を頼りにしてきた。祖父の岸信介元首相であれば、こんな間違いをしなかっただろう。日本が経済を活性化し、国土の安全を確保する唯一の道は、防衛関連の研究開発に本腰を入れることだ。たとえ日本が今、防衛予算を2倍にしても、一目置かれる効果的な軍事力を確立するのに10年かかるだろう。
安倍政権はまた、憲法を改正するだけで日本の状況は変わると誤解している。憲法を変えても、弱い日本は依然として弱い日本だ。弱体で役に立たない軍隊を展開する権利を憲法上持つことは、優れた戦略ではない。
安倍首相は優先課題を整理する必要がある。オバマ政権を喜ばそうとすることをやめ、歴史と産業政策を学び、防衛予算を増額し、経済を動かすことに努め、中国との本格的な対立の前に憲法改正が実現するよう祈るべきだ。安倍政権が日本の生き残りと将来の繁栄を望むなら、根本的に新しい産業政策のモデルが必要である。(了)