公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

冨山泰

【第237回】中国を脅威と断じないQDRに不満

冨山泰 / 2014.03.10 (月)


国基研企画委員 冨山泰

 

 米国は年内にアフガニスタンから戦闘部隊を撤収し、2001年9月11日の米同時テロから13年間に及んだ戦時体制に幕を引く。これにより、米国は国防政策の力点を「現在の戦争」から「将来の挑戦」へ移すが、オバマ政権は将来における国防上の最大の挑戦がどこから来るのか焦点を絞り切れずにいる。3月4日にヘーゲル国防長官が発表した「4年ごとの国防計画見直し」(QDR)は総花的な記述が目立ち、中国の軍事的脅威を肌で感じる日本などアジア諸国にとっては物足りない内容になった。

 ●アジア重視を表明しても
 QDRに中国の軍事的台頭を懸念する記述がないわけではない。しかし、それは、中国の軍近代化が透明性を欠くとか、中国が有事の際に米軍の展開を妨害する接近阻止・領域拒否(A2/AD)戦略を採用し、サイバー戦や宇宙戦の能力も強めつつあるといった、従来の懸念表明の域を出ない。
 前回2010年のオバマ政権初のQDRでは、中国などのA2/AD戦略に対抗して、空軍力と海軍力を一体的に運用する「エア・シー・バトル」(空と海の統合戦闘作戦)の概念が打ち出されて軍事専門家の注目を浴びたが、今年のQDRにはそのような新機軸も見当たらない。
 QDRはアジア太平洋地域への「リバランス」(バランスの再調整)と称するオバマ政権のアジア回帰政策を再確認した。オバマ政権2期目のアジア重視姿勢に疑問が生じている折から、この再確認は歓迎してよい。だが、QDRがこの地域の脅威と名指ししているのは、核ミサイルの開発を続ける北朝鮮であって、日本やフィリピン、ベトナムなど近隣諸国に対する軍事的な威嚇と挑発を強める中国でないのは腑に落ちない。

 ●目立つ米中の勢いの差
 オバマ政権が中国との協調を重視する「新型大国関係」の構築に動く中で、伝統的に中国に警戒的な国防総省は中国の軍備増強への懸念をQDRに盛り込むことで、精いっぱいの抵抗あるいは自己主張を試みたとも解釈できる。
 しかし、QDRが警告しているように、下院で野党共和党が多数を占める議会とオバマ政権の予算協議が再び暗礁に乗り上げ、歳出強制削減が再発動されて国防費が大幅に削られる事態になると、アジア太平洋地域でも米軍のプレゼンスを減らさざるを得なくなる。オバマ大統領の指導力不足がアジア重視の実行を困難にしかねないのである。
 もたつく米国を尻目に、中国は3月5日に開幕した国会に相当する全国人民代表大会(全人代)で、前年実績比12.2%増の国防予算を公表。さらに李克強首相の政府活動報告では「海洋強国」の建設へまい進する決意を表明した。
 戦争に疲弊して国内にこもりがちな米国と、領土と権益の拡大へ向けて軍事力行使をいとわない中国の勢いの差は歴然としている。米国の軍事的プレゼンスの後退によりアジア太平洋地域で生ずる空白を埋めるべき国は米国の同盟・友好国以外にない。「安倍(晋三首相)たたき」にうつつを抜かしているゆとりは米国にはないはずだが…。(了)