公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

櫻井よしこ

【第248回】朴大統領の国際感覚を問う

櫻井よしこ / 2014.05.26 (月)


国基研理事長 櫻井よしこ

 

 いま韓国の朴槿恵大統領に必要なのは、国の存立を脅かす真の敵を冷静に特定することだ。それは間違いなく北朝鮮と中国であり、全力で闘うべき相手は韓国内の「従北勢力」と、彼らを操る北朝鮮、その背後の中国であろう。
 にも拘わらず、朴大統領は5月22日、金章洙国家安全保障室長と南在俊国家情報院長を辞任させた。野党統合進歩党の内乱陰謀が発覚した事例に見られるように、韓国の中枢部に親北朝鮮勢力が浸透している中、政権発足当初から大統領を支え、北朝鮮の脅威と闘ってきた両組織のトップ2人の事実上の更迭は敵対勢力への屈服である。

 ●的外れな中国との連携
 朴大統領はまた、外交戦略の基本を米中両国との連携に置くが、中国を米国と同列に並べる発想は的外れである。米中の力を借りて北朝鮮を非核化する戦略は、11年間にわたる6カ国協議の失敗から学ばない希望的観測にすぎない。中国はこの間、北朝鮮の核開発を阻止せず、むしろ助けてきた。結果、北朝鮮の核兵器実戦配備が懸念される予断を許さない事態がいま生じているのではないか。
 中国の意図は2008年5月、李明博大統領(当時)の訪中時に発表された「冷戦期の軍事同盟」即ち米韓同盟では「地域の安全保障問題に対応出来ない」という中国政府の考え方にも明らかである。常に日米分断を図るように、米韓同盟をも断ち切らせ、朝鮮半島から米国の影響を排除するのが中国の狙いだ。
 米国のいない朝鮮半島は中国の独壇場となる。中国の戦略目標がそこにある限り、彼らが米韓同盟を認めた上で韓国に協力してくれるなど、金輪際あり得ない。米中二つの大国によい具合に守ってもらいたいという朴大統領の夢は、国際政治の論理から外れた甘い幻想である。

 ●韓国が選ぶべき道
 いま世界は、再び二つの大きなブロックに分かれつつある。自由と民主主義、国際法を重視する米国、日本、東南アジア諸国連合(ASEAN)などと、それらを否定する中国、ロシア、北朝鮮、さらにシリア及びイランなどである。
 一党独裁、他民族弾圧、自由の否定、国際法の無視に加えて、とりわけ中国に顕著なのが朝鮮民族への蔑視である。そのような中国の習近平国家主席を「自ずと波長が合う」と称賛し、中国依存に傾く朴政権の外交は噴飯もので、歴史に逆行する。
 朴大統領に問われているのは、世界のトラブルメーカーとなった中国と共に歩み、ロシアやシリアの側に立つのか、それとも、21世紀の人類の平和と秩序を民主主義、自由、国際法などで担保しようと努める米国や日本の側に立つのかということだ。
 前者を選べば、韓国は再び中国の属国となるだろう。朴大統領の選ぶべき道は明らかだが、肝心の大統領が正しい道を選ぶ国際感覚と政治的理性を備えているか、その点を私は厳しく問いたい。(了)