中国の習近平政権による反腐敗キャンペーンの嵐は、密告が大手を振った文化大革命さながらだ。習にとってこのキャンペーンは、権力基盤を固める一方、邪魔な分子や反習勢力を排除する意味合いが強く、権力闘争と連動していることは明白だ。しかし、共産党一党独裁体制を維持する以上、抜本的な腐敗一掃は不可能である。
●江沢民派を一掃
習は、江沢民(元党総書記)派の重鎮で元政治局常務委員の周永康、同じく江沢民派の元軍事委副主席徐才厚を既に血祭りに上げ、次のターゲットは同派の元軍事委副主席郭伯雄ともいわれる。
現在、江沢民派の元首相李鵬の一族に調査の手が及んでいる。高齢の本人には手を付けないが、一族の利権にはメスを入れていくだろう。
また、習は、江沢民派で現最高指導部の一員である政治局常務委員劉雲山の力を剥ぎ取った。劉はメディアや思想宣伝を統括してきたが、これまで習を貶める報道を巧妙に操作してきた。習はこれを認識しており、江沢民の意向に沿って面従腹背を続けてきた劉雲山の周囲から手を付けている。今年2月、習をトップにしたメディア統括の組織を立ち上げ、劉雲山の影響力を抑えた。さらに、国営新華社通信や党機関紙人民日報、北京日報などで人事に大ナタを振るい、習の息のかかった幹部に交代させた。不審死を遂げたメディア幹部もいるようだ。
軍内部では、2桁の将校が調査対象となっているほか、徐才厚の摘発後、各軍区で幹部人事の入れ替えが急速に進んでいる。「江沢民派の一掃作業」だという。
●胡錦濤との協力どこまで?
中国の共産党や軍の関係者によると、習は反腐敗闘争にからみ、前総書記の胡錦濤に政権運営の「協力依頼」をしていたとの情報がある。
中央軍事委員会の副主席2人が胡錦濤系であることに加え、胡錦濤に連なる党幹部養成機関、共産主義青年団(共青団)の出身者が地方や中央で多くの要職を占める。一方、習を支えるのは高官子弟の「太子党」や「紅二代」で、習の政治基盤はさほど強くない。
胡錦濤は前政権で江沢民に政権運営や人事で苦しめられ、習は次の党大会で決める人事にまで口出しする江沢民勢力を一掃したい。
「習としては胡錦濤の協力を得て江沢民の力を抑え込む構えだ。石油や電力等の利権構造にもメスを入れられる。胡錦濤も次期党大会で胡錦濤派を最高指導部に送り込める」と共産党関係者は話す。しかし「習―胡」の協力関係がどこまで続くかは分からない。(敬称略)