公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

田久保忠衛

【第328回】次の課題は憲法改正だ

田久保忠衛 / 2015.09.24 (木)


国基研副理事長 田久保忠衛

 

 点で観(み)るよりは、点を結ぶ線で判断する方が公平だろう。国家安全保障会議の設置、新防衛大綱の策定、集団的自衛権の行使容認などを盛り込んだいわゆる安保法制懇の報告書の受領、限定的ながら集団的自衛権行使を容認した閣議決定、日米防衛協力のための指針(ガイドライン)の改訂、それに今回の安全保障関連法の制定という一連の動きを眺めてくると、安倍晋三首相が日本をどのような方向へ持っていこうと走っているかが判然とするだろう。それは、戦後の日本に一番欠けていた安全保障体制の整備である。

 ●安保関連法の限界
 しかし、ここで特に強調したいのは、安倍首相が試みてきたのはあくまでも現行憲法の枠内における歪みの是正にすぎないとの事実である。「自衛隊は国内的には軍隊でないが、国際的には軍隊と見なされる」という珍妙な政府答弁が今の自衛隊を規定する説明だが、これを外国語に翻訳して外国人に読ませて理解されるかどうか。国内的に軍隊でなく、国際的に軍隊だと言われても、目を白黒させるだけだろう。
 日本は国のバックボーンである軍隊の存在を憲法に明記していない世界でもまれな国であるとの自覚が国民一般にどれだけあるか疑問だ。晩年の吉田茂(元首相)が著書「世界と日本」で気にしたのは、自衛隊を災害対策要員としてだけ使おうとする当時の風潮だった。これはいまだに変わっていない。
 
 ●自民党は初心に帰れ
 今回の安保関連法案審議のもたつきで腹が立ったのは「戦争法案」「徴兵制復活」のデマをあおり立てる野党による宣伝の巧みさだった。同時に、政府・与党の対応はなっていなかったと思う。われわれ国家基本問題研究所でも政府関係者の説明を聴いたが、条文の解釈をペラペラまくし立てるだけで、国の欠陥のここを改めるのだとの使命感や情熱は感じられなかった。
 参院での採決の1週間ほど前に「自民党の宣伝ビラがようやくできました」との説明を耳にしたが、これでは宣伝戦に勝てない。自衛隊のOBが実体験に基づいた防衛体制の欠陥はこれだとズバリ指摘してくれた。このような人物を国民向けのスポークスマンになぜ選ばなかったのか。
 今月18日の「言論テレビ」(櫻井よしこ国基研理事長のインターネット番組)で、安倍首相は憲法改正が自民党の初心だと明言した。心強い。安保関連法成立まで反対があまりに盛んだったことから、改憲を口にするのは控えたいと考える弱腰の政治家が出てくるとしたら、われわれは真っ向から反対する。30日に国基研は憲法改正をテーマに月例研究会を開く。志を新たにしなければならないと思うからだ。(了)