9月24~25日にホワイトハウスで行われた米中首脳会談は、時に国際ルールを無視して米国主導の世界秩序に挑戦する中国に対し、オバマ米政権の打つ手が当面限られていることを浮き彫りにした。
●サイバー攻撃への制裁先送り
首脳会談の最大テーマの一つだったサイバー攻撃の問題で、米中両国とも、商売上の利益のためサイバー攻撃で米国の企業秘密を盗む行為を実行せず支援もしないことを約束した。また、サイバー犯罪の捜査で米中が協力することでも合意した。
しかし、規制されるのはサイバー攻撃のうち、経済目的で企業秘密を盗む行為だけであって、中国の関与が疑われている米政府連邦職員の個人情報漏えいなどは対象にならない。
しかも、今回の合意成立により、オバマ政権が検討していたサイバー攻撃で利益を得た中国企業への制裁発動は先送りされた。米中合意の実効性に疑問が投げ掛けられる中で、米国の反撃の手だけ縛られることになりかねない。
もう一つの懸案だった南シナ海における中国の一方的な岩礁埋め立てと軍事施設建設をめぐって、習近平中国国家主席は会談後の共同記者会見で「中国は軍事化を進める意図はない」と主張した。埋め立ての終わったスプラトリー諸島のファイアリークロス礁で3000メートル級滑走路が完成し、中国機の海上パトロールが可能になったと軍事専門誌に報じられた直後だけに、首をかしげざるを得ない発言である。
ところがオバマ大統領はこの発言に特に反応しなかった。共同記者会見でオバマ大統領はサイバー問題をめぐり、中国が約束を実行するか「注視する」とけん制したのだから、南シナ海の問題でも、習主席の発言を逆手に取って「人工島の非軍事化を注視する」と警告すべきではなかったか。
●中国が「核心的利益」隠し?
ところで、習主席は今回も米国との「新型大国関係」の構築に取り組むことを強調した。米中が国際政治を牛耳ることになりかねないため、日本としては警戒しなければならない構想である。ただ、中国が南シナ海の領有権主張など「核心的利益」の相互尊重を新型大国関係に盛り込んでいることがはっきりして以来、オバマ政権は新型大国関係の受け入れに慎重な姿勢を示してきた。
ところが今回の訪米で、習主席は少なくとも公の発言で米国が気にする核心的利益という表現を使わず、互いの「利益」(9月22日のシアトル演説)の相互尊重が必要、と言い方を微妙に変えてきた。核心的利益に言及しなくなれば新型大国関係を受け入れてもよいという意見が米国の一部識者に存在する(例えばThe Catch-22 in U.S.-Chinese Relations, Snapshot, February 22,2015)ことに留意して、日本は今後の米中の動向に目を光らせる必要がある。(了)