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太田文雄

【第330回】ロシア新型弾道ミサイル原潜の太平洋配備の意味

太田文雄 / 2015.10.05 (月)


国基研企画委員 太田文雄

 

 9月30日にロシアのボレイ級戦略弾道ミサイル原子力潜水艦(SSBN)「アレクサンドル・ネフスキー」がカムチャツカ半島東部に到着したと同日の米有力インターネット新聞インターナショナル・ビジネス・タイムズがロシアのイタル・タス通信を引用して報じた。
 これまで、ロシアの北海艦隊には新型弾道ミサイルのブラバを搭載するボレイ級SSBNが配備されていたものの、太平洋艦隊に配備されていたSSBNはデルタIII級で、最新艦でも1981年の就役であることから既に艦齢が過ぎ、実質的なパトロールはできていなかった。しかし、ボレイ級の太平洋艦隊への配備は軍事的に見て、冷戦時代のオホーツク海要塞化が再び現実味を帯びてくることを意味する。

 ●高まる北方領土の戦略的重要性
 冷戦終了後、北方領土のロシア軍は削減されたが、それはオホーツク海を要塞化する必要がなくなり、戦略的重要性が低下したからである。しかし今回の新型SSBNの太平洋艦隊配備によって、北方領土の戦略的重要性が再度高まってくる。
 こうした背景から、ロシアが北方領土を日本に返還する可能性は遠のいたと見るべきであろう。そうでなくとも、昨今のロシア高官の北方領土訪問や、岸田文雄外相とモスクワで会談した直後のラブロフ・ロシア外相の「北方領土問題は協議しなかった」という頑なな発言(9月21日)を聞けば、ロシアが簡単に北方領土を返還するつもりがないことは明らかである。

 ●何のためのプーチン訪日か
 国連総会出席を機会に安倍晋三首相はプーチン・ロシア大統領と会談し、年内の大統領訪日が取りざたされている。駆け足でニコニコしながら大統領に近づく安倍首相に対し、したり顔で迎える大統領が印象的であった。
 一方で、ロシアの新型SSBNが太平洋艦隊に配備された翌日の10月1日には、これまでの空母「ジョージ・ワシントン」よりも10年後に建造された「ロナルド・レーガン」が母港の横須賀に入港し、米国のアジア・リバランス(再調整)政策を裏打ちした。ロシアの一方的なクリミア併合を批判する米国は「現在はロシアと通常の関係に戻る時ではない」(国務省)と警告している。日本が米国との関係を損ねてまで、この時期にプーチン大統領の訪問を実現するメリットは一体何だろうか?
 1989年の天安門事件で国際社会から孤立した中国は、日本をくみしやすい相手として1992年に天皇訪中を実現、孤立から脱することに成功した。以後、中国は孤立から脱出させてくれた恩人である日本にどのような仕打ちをしてきたか?
 現在、クリミア併合やウクライナ東部への武力介入で国際社会から孤立しているロシアは、孤立から脱しようとして利用しやすい相手を探している。日本は成果が不透明なままプーチン大統領との関係にのめり込むべきではない。1992年の轍を踏んではならない。(了)