公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

太田文雄

【第362回】日本は太平洋・インド洋安全保障の要に

太田文雄 / 2016.03.07 (月)


国基研企画委員 太田文雄

 

 1月末の米国出張に続き、2月末には英国での国際会議に参加した。両方の出張を通じて感じるのは、国際社会の対中認識が極めて厳しくなりつつあるという潮目の変化である。具体的に言えば、誰もが中国の「言葉の戦い」(War of Words)に基づくプロパガンダを相手にしなくなり、中国指導者の発言と実際の行動に大きな乖離があることを認識し始めた。大きな流れとして中国は国際的な孤立を深めている。中国の領域拡張という「動」に対して、国際社会の「反動」が顕著になりつつある。

 ●重層的な地域協力の枠組み
 大統領予備選挙がたけなわの米国では、民主、共和両党の最有力候補が共に環太平洋パートナーシップ協定(TPP)に反対を表明するなど、超大国あるいは世界のリーダーとしての自覚よりも、国内世論の動向に左右されるといった頼りなさを露呈している。
 それでも米軍は、空母ジョン・C・ステニスを南シナ海での警戒監視活動に投入した。安全保障関係では、太平洋・インド洋地域で三つの3カ国関係が強化されつつある。一つは日米豪、二つ目は日米印である。米太平洋軍司令官のハリス海軍大将は、中国の軍事拠点化が進む南シナ海に近いフィリピン海で今年の日米印海軍合同演習マラバールを実施することを明らかにした。そして三つ目は、最近の北朝鮮の核実験と弾道ミサイル発射によって再活性化し始めた日米韓の3カ国関係である。
 また、米国は東南アジア諸国連合(ASEAN)との首脳会議を開催して関係強化に本腰を入れ始めたが、ASEAN各国に対する能力構築支援(キャパシティー・ビルディング)では日本に多くの期待がかかっている。
 さらに5月に就任する台湾の蔡英文次期総統は、台湾の防衛費を現在の対GDP(国内総生産)比2%強から3%程度に増やすもようだ。米国が台湾関係法を持つように、日本も台湾との関係を定める「日台関係基本法」のようなものを制定すれば、日米台の関係も強化されよう。
 即ちいずれの多国間協力関係にも日本は関わっており、太平洋・インド洋の安全保障で日本が今後、要を担う可能性が高まっている。

 ●日米同盟の信頼損ねるな
 多国間安全保障関係を強化する上で、日本の集団的自衛権行使は必須となってくる。日本が太平の 眠りを貪っていた時代は過ぎつつある。現在の厳しい安全保障環境の下で、防衛費の対GDP比は1%のままで良いのであろうか。
 さらに、同じ防衛予算でも、攻撃能力を備えた防衛力を持てば抑止力の効果を高めることができる。「専守防衛」の呪縛の解除が可能となるように憲法改正へ進んで行くことが、太平洋・インド洋の安全保障協力関係を構築していく上で必要ではなかろうか。
 目先の参院選対策のために沖縄問題等で国民受けする政策を取り、結果として日米同盟の信頼を損ねるような余裕は、今の日本にない。(了)