公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

湯浅博

【第361回】中国軍の動きに無関心な日本の国会

湯浅博 / 2016.02.29 (月)


国基研企画委員・産経新聞特別記者 湯浅博

 

 内外の新聞、雑誌、ネットの世界で、南シナ海や東シナ海での米中の軍事行動が報じられない日はほとんどない。中国は年明けから南シナ海の人工島に軍用機を着陸させ、2月に入って南シナ海のパラセル諸島に地対空ミサイルを配備し、さらにスプラトリー諸島にはレーダー施設の構築を進めつつある。中国はいずれのケースも、米国の偵察衛星を意識して、既成事実を意図的にひけらかしていた。
 米国が日本と決定的に違うのは、オバマ政権が動くのはもちろんだが、上下両院の軍事委員会が素早く当局者、軍事専門家を招いて議論していることである。中国による南シナ海の軍事拠点化は、そのまま東シナ海の尖閣諸島への圧力に直結する。しかし、日本の衆参両院とも委員会で議論した形跡が全くないのはどうしたことか。

 ●米議会は直ちに公聴会開催
 2月23日の米上院軍事委員会の公聴会では、ハリス太平洋軍司令官が、中国は東アジアの覇権を求めていると指摘し、南シナ海を「前方展開基地に変容させようとしている」と警告した。司令官は米艦船を派遣する「航行の自由作戦」の継続を強調し、米議会からの了承を得た。オバマ政権はアジア重視のリバランス(再均衡)政策を提唱しながら、軍事作戦には腰が引けているから、議会のお墨付きは軍に弾みをもたらすことになる。
 さらに議会は、国防権限法に基づいて戦略国際問題研究所(CSIS)に報告書「アジア太平洋リバランス2025」を出させ、執筆者代表のマイケル・グリーン上席副所長ら専門家と議論した。報告書が求めた2空母打撃群のアジア配備の推進がじょうに載り、国防総省との協議に持ち込まれている。
 米国の法律は100%議員がつくる。議員がlawmaker(法の制定者)と呼ばれるのはそのためである。それだけ責任は重く、刻々と変わる国際情勢への対応にも敏感で、直ちに両院の委員会が公聴会を開く。
 
 ●永田町の話題は専ら政局
 南シナ海情勢は東シナ海に直結する。中国による南シナ海の「独り占め戦術」に気を取られているうちに、尖閣周辺海域でも中国の公船がプレゼンスを一気に高めている。尖閣の日本領海には、機関銃を搭載した公船を侵入させている。中国海軍のフリゲート艦が偽装されている疑いが消えず、公船はますます大型化する。
 しかし、日本の衆院安全保障委員会は23日午前、中谷元・防衛相から予算説明を受け、北朝鮮のミサイル発射問題を聞いて、わずか30分で散会している。外務委員会も24日に岸田文雄外相から国際情勢の所信を聞いただけで、わずか15分で散会。参院の外交防衛委員会は1月28日に開催したきりで、こちらは音なしである。永田町界隈は、野党の離合集散に関わる政局の話題ばかりで、国民の安全と繁栄に関わる問題は先送りであった。(了)