公益財団法人 国家基本問題研究所
https://jinf.jp/

今週の直言

太田文雄

【第420回】国防長官の顧問から米戦略を予測する

太田文雄 / 2017.02.06 (月)


国基研企画委員 太田文雄

 

 トランプ米政権のマティス国防長官が初来日し、安倍晋三首相や稲田朋美防衛相と会談した。マティス長官は日米同盟の重要性を確認するとともに、中国が触手を伸ばす尖閣諸島は米国の対日防衛義務を定めた安保条約第5条の適用対象であると明言して日本側の不安解消に努めたが、本直言では2週間前に同長官が選抜した2人の顧問から今後の米国防戦略を予測してみたい。
 
 ●空母打撃群で指揮官の経験
 1人はクレイグ・フォーラー海軍少将で、2012年ごろにインド太平洋海域で第3空母打撃群指揮官に任ぜられていた。米議会と太いパイプを持つことから、5年前に法制化された国防予算の強制削減を撤廃し、国防費を増額する役割を期待されている。同少将は対北朝鮮・中国戦略にも精通している。
 もう1人はケビン・スウィーニー退役海軍少将で、マティス長官の首席補佐官を務めるが、同じく空母打撃群の水上戦闘指揮官の経験がある。
 スウィーニー氏は1982年、フォーラー少将は1983年の海軍兵学校卒業で、筆者が同学校教官時代の学生であった。フォーラー少将はシステム工学を専攻し、海軍での経歴の前半は原子力の専門家として活躍、スウィーニー氏は通信・戦闘システムの専門家である。

 ●アジア軽視への懸念薄れる
 昨年12月5日、筆者は本欄で「トランプ次期政権高官に対する一抹の不安」と題してマティス国防長官、フリン国家安全保障担当大統領補佐官、ポンペオ中央情報局(CIA)長官らが陸上戦闘志向であることや、アジア太平洋地域での経験が少ないことを指摘し、アジアへのリバランス政策や対中戦闘構想である「エアーシーバトル」がどうなってしまうのか懸念を表明した。
 しかし、マティス国防長官が最初の外国訪問地に韓国と日本を選択、そしてかつて空母打撃群で指揮官を経験した2人を顧問に選び、現在の海軍制服組トップのリチャードソン作戦部長とも極めて緊密な関係であることから、その懸念は払拭されつつある。
 マティス長官自身も、筆者がワシントンの国防武官であった時、デ・レオン国防副長官の軍事顧問として、当時は准将で勤務しており、国防総省での仕事の進め方を熟知している。ただ、元海兵隊大将のマティス氏は元陸軍中将のフリン補佐官より階級的にも年次的にも上であることから、フリン氏はマティス氏の国防長官への起用を嫌ったと報じられており、両者の不仲が米国防戦略に影響しなければ良いがと願っている。(了)