公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

西岡力

【第426回】大統領弾劾成立で孤立する韓国保守派

西岡力 / 2017.03.13 (月)


国基研企画委員・東京基督教大学教授 西岡力

 

 3月10日、韓国の憲法裁判所は朴槿恵大統領の弾劾を決めた。8人の判事全員一致の決定だった。ずさんな事実認定と法解釈に言葉も出なかった。
 そもそも、大統領直選制をとる韓国憲法では、国会は大統領の政治責任を問うことができない。ただ、大統領が重大な憲法違反や法令違反を犯した場合に限り、国会は総議席の3分の2の賛成をもって「弾劾訴追」を憲法裁判所に対して行うことができる。すなわち弾劾訴追は刑事裁判において検察が行う起訴に当たる。

 ●偏向した憲法裁判所決定
 しかし今回、韓国国会は事実関係の調査をせず、自分たちがそのために任命した特別検察官の活動が始まる前に、13項目の憲法違反、法律違反を理由に弾劾訴追を行った。「秘線組織(秘密組織)」「国政ろう断」など法律用語にない政治的表現を使うなど、およそ起訴状の体を成していなかった。
 ところが、憲法裁判所の決定文は「国会の自律権」という理屈を立てて、犯罪事実を調べもせず訴追したことの違憲性を問わず、大統領が親友の崔順実被告の国政介入を許したことと職権を乱用したことを違憲、違法と断じた。その上で、訴追項目にない大統領の捜査非協力などを「憲法を守る意思が見られない」と非難して弾劾を決めた。あまりに偏向した決定だった。
 3月1日に韓国の国旗である太極旗を持ってソウル中心部に集まった30万を超す体制擁護勢力は憲法裁判所の決定に対して怒りの抗議行動を行い、その渦中で3人が死亡した。彼らは反大統領ろうそくデモを主導した左派労組、誤報を重ねて国民を煽動したマスコミ、魔女狩り的捜査を行った検察、ろうそくデモを恐れて拙速な弾劾訴追をした国会、偏った弾劾決定をした憲法裁判所を「5賊」として糾弾し、5月初めの大統領選挙で従北左派政権を阻止する運動を続けると宣言した。
 残念ながら彼らは孤立している。朝鮮日報など保守系新聞でさえ弾劾に加担して左派を支援し、与党も60人余りが裏切って弾劾訴追に賛成し、そのうち半分程度が脱党して「正しい政党」という中道新党を作った。保守派の頼みの綱だった黄教安首相は大統領権限代行として選挙管理に責任があり、立候補は困難になった。唯一の希望は自由韓国党(与党が改称)の56人の議員が弾劾反対の署名を行ったことだ。

 ●韓国の危機は日本の危機
 翻って日本のマスコミは、隣国で銃声なき内戦が行われているのに、保守派の危機感を伝えない。韓国に北朝鮮寄りの政権が生まれ、朝鮮半島全体が核を持つ共産主義独裁政権の支配下に入る危険性が高まっているのに、日本の国会で取り上げられることもない。
 韓国保守派のリーダーでジャーナリストの趙甲済氏は、今の韓国の危機は国の安全保障を米軍に依存して国民精神が弛緩したことが原因だと語ったが、私は日本がその轍を踏む恐れを強く感じている。韓国の危機は日本の危機であり、わが国は早急に憲法9条2項を改正して国軍を持ち、防衛費を2倍程度に増額すべきだ。(了)