公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

冨山泰

【第432回】米中関係で警戒すべき「相互尊重」

冨山泰 / 2017.04.10 (月)


国基研企画委員兼研究員 冨山泰

 

 4月6~7日、米フロリダ州の別荘に習近平中国国家主席を招いて開いた初の米中首脳会談で、トランプ米大統領は最大の懸案の北朝鮮問題と貿易不均衡問題で強い不満を伝え、中国に厳しい姿勢を取った。これはよいことだ。しかし、両首脳は「相互尊重」を基礎に意見の相違を管理することで合意したと米中双方から説明があったのは気に掛かった。
 相互尊重という言葉は、これまで中国が米国に「核心的利益」の相互尊重を求めるという文脈で用い、台湾、チベット、南シナ海など譲ることができないとされる問題で米国の介入を排除する時の決まり文句であった。今回の合意で、中国はトランプ政権に同じ要求を突き付ける素地を作ったと言えるのではないか。
 
 ●シリア攻撃に対中警告の効果も
 首脳会談に同席したティラーソン米国務長官によると、トランプ大統領は、北朝鮮が核・ミサイル開発を続ける限り対話に応じないと明言するとともに、中国の協調が得られないなら米国は「わが道を行く」用意があるとすごみ、習主席に対北朝鮮制裁の強化を迫った。
 会談初日の夕食会中、シリア内戦における新たな化学兵器使用を理由に、トランプ大統領がアサド政権軍の空軍基地への巡航ミサイル攻撃に踏み切ったことは、習主席の度肝を抜いたはずだ。北朝鮮の核・ミサイル開発を放置すれば米国の対北軍事攻撃もあり得ると習主席に思い知らせる効果があったであろう。
 中国のごり押しの行動が目立つ東シナ海と南シナ海の情勢に関しても、トランプ大統領は軍事拠点を造らないというかつての習主席の約束と国際規範の順守を要求して、対決姿勢を鮮明にした。
 中国の王毅外相によれば、習主席は会談で、①台湾、チベット、南シナ海の問題で中国の原則的立場を表明した②北朝鮮問題では(北朝鮮の核・ミサイル開発と米韓合同軍事演習の)双方の一時停止を改めて提案し、米国の高高度防衛ミサイル(THAAD)システムの韓国への配備に重ねて反対した―とされ、重要な安全保障問題で米中間の歩み寄りはほとんどなかったようだ。

 ●意見対立を管理する基礎
 問題は、ティラーソン長官と王外相が共に、「相互尊重を基礎に意見の相違を管理することで(両首脳は)合意した」と説明したことだ。
 相互尊重という言葉をめぐっては、ティラーソン長官が3月の訪中で、米中関係は「相互尊重」や「ウイン・ウインの協力」を指針としてきたと発言し、米国で物議を醸した。オバマ前米政権に「新型大国関係」の構築を迫り、その柱として核心的利益の相互尊重を要求してきた習主席の用語をそのまま使ったのは不注意だと批判されたのである。その問題の表現が、米中首脳の合意の中で再び登場した。
 日本語訳で配信されている中国国営新華社通信の報道を点検する限り、習主席が今回、トランプ大統領に新型大国関係の構築を呼び掛けた様子はない。しかし、核心的利益の相互尊重を米国に要求するのであれば、習政権の対米政策の基本は変わっていない。(了)