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櫻井よしこ

【第433回・特別版】テロ等準備法、反対のための反対をやめよ

櫻井よしこ / 2017.04.10 (月)


国基研理事長 櫻井よしこ

 

 日本が国際組織犯罪防止条約に加入するために必要な国内法であるテロ等準備罪に、朝日新聞や民進党などが全面否定の論陣を張っている。
 中国の膨張主義、北朝鮮の脅威、左傾化する韓国に加えて、トランプ米大統領のシリア攻撃が国際社会の秩序に及ぼす影響も見定め難い。国際情勢は不安定で、厳しさを増すばかりだ。2020年の東京五輪もあり、日本を狙ったテロや犯罪が発生する危険は高まり続ける。
 テロや犯罪防止を目標に、諸国は国際組織犯罪防止条約を結んで情報交換を含む協力体制を築いてきた。国連加盟国の96%に当たる187か国が加入済みで、未加入国は日本を含めて11か国のみだ。
 ところが朝日新聞は「犯罪を計画段階で処罰する『共謀罪』の趣旨が盛り込まれて」おり、人々の内心の自由に権力が踏み込む危険があるから反対だと主張する。それが事実なら私とて許容できない。だが、法案を精査すればその懸念は払拭されている。
 
 ●「共謀罪」の懸念は払拭された
 11年前、連立与党の自民党と公明党が提案した「共謀罪」について、私は衆院法務委員会で参考人として意見を述べた。当時は、朝日や民進党が現在主張している懸念の余地がなくもなかった。従って私は二つの点を述べた。
 ①共謀罪は必要だ②但し、個々人の心の中にまで入り込んで規制し、言論、思想信条の自由を阻害しないよう、外形的要件を定めるべきだ。そのために与党は民主党(現民進党)の修正案を受け入れるのがよい。
 11年前、民主党も朝日も合理的な修正案を提出、提言していたのだ。
 今回の政府法案は当時の共謀罪とは大きく異なる。11年前には重大な犯罪を行おうと具体的に合意したことを罪に問えたのに対し、今回は合意に加えて実行準備行為があることが要件とされたのが最大の違いだ。私が要望し、民主党や朝日新聞も求めていた明確な歯止めが施された。

 ●現行法でテロ取り締まりは無理
 にも拘らず、民進党も朝日新聞も今なお反対し、現行の犯罪取締法でテロも十分取り締まれると主張する。だが現行法では無理である。
 たとえば、テロリスト集団の一員がいて、刑務所に収監されている仲間を救い出すため一般人を人質に取って、刑務所の仲間と交換しようと考えたと仮定する。
 現行法では、テロリストたちがその計画を立てても手を出せない。武器を購入しても捕まえられない。武器を携行して狙った人のいる家の近くまで行っても逮捕できない。現行法では、犯人たちが武器を持って狙った家に侵入した段階で、初めて逮捕できる。日本国の法律は、基本的に犯行後に対する処罰だからだ。しかしそれでは遅すぎる。
 テロ等準備罪の下では、武器購入の段階で犯人たちの逮捕、取り調べが可能になる。テロ等準備罪こそが現行法の重大な穴をふさぐ機能を果たすのだ。1日も早く、同法案を成立させることこそ、必要なのであり、朝日新聞も民進党も反対のための反対はやめるべきだ。(了)