停滞の極みにある憲法改正論議に5月3日、安倍晋三首相が斬り込んだ。①2020年までに改正憲法を施行したい②9条1項と2項を維持しつつ、自衛隊の存在を明記する規定を追加したい③国の基は立派な人材であり、そのための教育無償化を憲法で担保したい―という内容だ。
●「政治は結果だ」
9条1項は、平和主義の担保である。2項は「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」で、軍事力の不保持、即ち非武装を
2項を維持し、如何にして軍隊としての自衛隊の存在を憲法上、正当化し得るのか。矛盾を含んだボールを憲法論議の舞台に投げ込んだ理由を、首相は5月1日、中曽根康弘元首相が会長を務める超党派の国会議員の会、「新憲法制定議員同盟」で明白に語っている。
「憲法改正の機が熟してきたからこそ、具体的な提案が求められている。政治は結果だ。自民党改正草案も含めて、どんなに立派な改正案も衆参両院で3分の2の勢力を形成できなければ、ただ言っているだけに終わる」
約15分間の講演で、首相が原稿から離れて繰り返したのは、「政治家は評論家ではない。学者でもない。ただ立派なことを言うところに安住の地を求めてはいけない」だった。
護憲派の評論家や学者はもとより、改憲派の保守陣営にも首相は切っ先を突きつけている。「あなた方は口先だけか、現実の政治を見ることなしに、立派なことを言うだけか」と。この構図は保守がその対応において二分された戦後70年談話と同じである。
5月9日には、国会でつまらない質問を繰り返す蓮舫民進党代表にも説いた。「政治家は立派なことを言うだけではなく、結果を出していかなければならない」と。
政党にも政治家にも同様に問うているのだ。「憲法審査会ができてすでに10年が経過した。なぜ、無為にすごすのか」と。
●9条2項削除への責任
結果を出すには、「加憲」を主張する公明党、高等教育を含む教育の無償化を唱える日本維新の会、そして民進党の改憲派も取り込みたい。本来なら憲法改正の最重要事である9条2項の削除を封印してでも、国民世論の反発を回避して幅広く勢力を結集したい、というのが今回の政治判断だ。それは評価せざるを得ない。
安倍政権下での好機を逃せば、改憲は恐らく再び遠のく。「立派なことを言うだけ」の評論家的立場は、この際取るべきではない。従って2項と、自衛隊を規定する3項の整合性を保つために、具体的案文の作成に資することが大事である。
同時に、私たちは政治家と異なる次元で世界の現実を見、長期的視点に立って日本国憲法のあるべき内容を具体的に提示し続ける責任を、これまでと同様、果たさなければならない。日本周辺の現実の厳しさ、国家としての在り方を考えれば、9条2項の削除こそが正しい道であることは揺るがない。その地平に辿りつくまで、あるべき改憲を目指して闘い続けることが私たちの責任である。(了)