公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

西岡力

【第463回・特別版】米市長に慰安婦の真実を説明

西岡力 / 2017.08.29 (火)


国基研企画委員・麗澤大学客員教授 西岡力

 

 8月25日、私は米カリフォルニア州グレンデール市のバルタン・ガルペティアン市長と面会できた。ロサンゼルスに近いグレンデール市では2013年7月30日に旧日本軍の慰安婦像が市立中央図書館前の市有地の公園に建てられた。ソウルの日本大使館前に不法に建てられたのと同じ像だ。しかもグレンデールの像の横には、ソウルと違い、「性奴隷」「強制連行」「少女」「20万人」といった慰安婦に関する事実無根の主張を刻んだ碑が埋め込まれている。
 現地関係者から聞いたところによると、韓国系運動体は慰安婦について、第1次世界大戦中にオスマン・トルコ帝国で起きたとされるアルメニア人虐殺と同種の大量虐殺の犠牲者であるかのように宣伝して、像の設置に成功した。グレンデール市はアルメニア系住民が人口の約3割を占めている。

 ●像設置は日米友好の障害
 市長との面会は1時間の約束だったが、話が弾み1時間20分となった。私は英語スピーチ原稿を用意し、通訳に25分ほどかけて朗読してもらった。そこでは、慰安婦問題を25年以上研究してきた日本の学者としての立場から、像の主張する内容がいかに事実に反するかを、日韓両国の学者の説を多数引用する形で説明した。また、軍の管理下の公娼だった慰安婦はアルメニア人虐殺やホロコースト(ナチス・ドイツによるユダヤ人虐殺)の犠牲者とは全く違うと強調した。その上で、最後に次のように話した。
 「貴市が公的施設内に慰安婦像を設置し続けていることは、大多数の日本国民にとって、貴市の反日的姿勢の表れと受け取らざるを得ず、貴市と日本の友好、そして米国と日本の友好に大きな障害となっている」
 「私たちは、日韓両国間の複雑な歴史論争において、貴市が日本の立場を一方的に支持することを望んでいない。日本の言い分も十分理解した上で、日韓どちらの側にも立たず、日米、米韓の親善友好に努めるという常識的な立場に立ってくれるよう望むだけだ。日米友好の観点から、ぜひ検討してくれることを願う」

 ●市議会への働き掛けで移転可能
 市長は「このような話は初めて聞いた。自分はこの問題で日本と韓国のどちらが正しいかを判断する審判になるつもりはない。我が市ではどの民族に対しても差別をしていない」などと話した。韓国側の主張を引用して私に反論してくるかもしれないと思っていたが、それはなかった。
 私は「審判にならないという市長の言葉はうれしい。しかし、市有地に像が建っている以上、韓国側の主張が正しいと判断していることになる。ぜひ像を市有地の外に移転してほしい」と要望した。市長は、それは自分の権限ではなく、市議会での投票が必要だと答えた。
 市長は市議会議員を兼ねており、市長以外に4人の議員がいる。その4人への事実の説明さえきちんとできれば、慰安婦像移転の可能性は十分にある。ロサンゼルスの日本総領事館や地元関係者はそのことを十分認識して、様々な働きかけを行っている。良い結果が出ることを期待しつつ、帰国の途に就いた。(了)