産経新聞与党キャップ 榊原智
何という皮肉だろう。金権政治からの決別、政治資金の透明化を唱えて平成5年に自民党を飛び出し、新党さきがけ、民主党の結党を主導して、ついには首相の座を射止めた鳩山由紀夫首相が、自らのカネ絡みの疑惑にがんじがらめとなっている。
事は深刻だ。首相の一連の疑惑は単なる「政治とカネ」の問題にとどまらず、米軍普天間飛行場の移設問題の早期決着を妨げ、日本の国益、安全保障を大きく損なっているからだ。
深刻な「脱税」浮上
民主党内にはこれまで、首相の政治資金管理団体の偽装献金問題について、「自分の懐から余計に出したとイジメられている」(渡部恒三元衆院副議長)との擁護論があった。あまり感心できる論法ではないが、業界からの資金提供ではないことをもって、罪一等が減じられるという感覚なのだろう。
ところが、新たに浮上した首相の実母、安子氏からの資金提供問題はさらにひどく、贈与税の脱税(相続税法違反)疑惑だ。
首相サイドは安子氏名義の口座から、毎月1500万円、年間1億8000万円を6年余で約11億円を受け取っていたとされる。
首相は知らなかったとするが、にわかには信じがたい。もしその程度の事態の把握力なら、国政の指導などできるのだろうか。
検察当局は今月中に、首相の元秘書の起訴など偽装献金問題の処理に乗り出す可能性がある。贈与税脱税疑惑の捜査も進展するかもしれない。首相にとって命綱である高い内閣支持率が急落する恐れは十分にある。
連立維持より安全保障を
そんな時に、普天間で日米合意に沿った決断を下せばどうなるか。社民党の連立離脱騒動と、衆院選で「県外・国外移設」を唱えた首相の公約違反論議が巻き起こり、支持率低下に拍車をかけかねない。首相はこれに耐えられなかったのだろう。普天間問題の年内決着をあきらめ、これを12月4日の日米閣僚級作業グループで米側に伝達させた。
激怒したルース駐日米大使は顔を真っ赤にして日本側に抗議したが、これは単なる感情の発露ではない。あらかじめ準備された米側のメッセージだ。日米同盟関係は危機に陥っている。
一国の指導者には、目先の政権維持、連立維持よりも国益、国家国民の安全保障を選ぶ義務がある。それこそが、今もっとも求められる政治倫理だ。(了)
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第16回:国益損なう鳩山疑惑(榊原智)