公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

遠藤良介

【第557回】「四島返還」の大義しかあり得ぬ

遠藤良介 / 2018.11.19 (月)


産経新聞論説委員 遠藤良介

 

 安倍晋三首相とロシアのプーチン大統領が14日に会談、日ソ共同宣言(1956年署名)に基づく平和条約締結交渉を加速させることで合意した。安倍首相は、色丹と歯舞の「2島返還」を軸にした交渉路線を打ち出した形だ。しかし、北方領土問題の根幹に関わる大義の面でも、対露交渉の戦術としても、安倍首相の交渉路線は危うい。このままでは、「2島返還」ですらままならない。

 ●交渉の大幅な後退
 日ソ共同宣言は、ソ連が平和条約の締結後に色丹、歯舞を引き渡すとしている。同宣言を基礎にすることで2島の返還を確保し、さらに「+α」を狙うのが日本側の目算だろう。平和条約交渉に①残る択捉、国後両島の継続協議②国後、択捉両島への日本人の自由往来や、両島での共同経済活動―といったことを絡めたいのだと考えられる。
 だが、択捉、国後、色丹、歯舞の北方四島は、ロシアに不法占拠された日本固有の領土である。日ソ共同宣言で戦争状態は終わり、国交も回復した。これ以来、国是とされてきたのは、北方四島の返還である。60年余り前の日ソ共同宣言に立ち返り、それ以降に積み上げられた交渉成果をないがしろにすれば、交渉は大きく後退しかねない。
 平和条約は本来、戦後処理として国境線や領土について記すものであり、条約締結後に択捉、国後の帰属を議論する「2島先行返還論」は論理的に矛盾している。プーチン政権も乗ってこないだろう。

 ●露に迎合、「2島」も危うい
 プーチン氏はさっそく冷や水を浴びせてきた。15日の記者会見で同氏は、日ソ共同宣言で引き渡すとされている色丹、歯舞について「どこの主権下に入るのかは(共同宣言に)書かれていない」と言い放った。色丹、歯舞の主権も交渉対象だというわけだ。
 ロシアは、従来「日ソ共同宣言は、両国によって批准された唯一の文書であり、別格だ」と主張しており、それに迎合するから、日本の足元を見て増長するのだ。
 今や欧州連合(EU)と北大西洋条約機構(NATO)の一員であるバルト三国について紹介したい。三国は1918年にロシア帝国から独立したが、その後、独ソ不可侵条約の秘密議定書によって40年にソ連に併合された。91年にバルト三国が独立を回復した際、最も強力な根拠とされたのは、当事国を無視した秘密議定書は無効だ−−という点である。
 ロシアが北方領土領有の根拠だと主張する「ヤルタ協定」も同様の秘密合意である。わが国は、四島返還を求める大義を、国際社会に向かって堂々と発信すべきだ。(了)