中国の勢力圏拡大構想「一帯一路」は海外における新たな中国軍基地の建設を促すとして、米政府が警戒を強めている。中国政府によって一帯一路の一部と位置付けられた北極圏では、中国の戦略原子力潜水艦が配備される可能性も指摘されている。今や一帯一路は軍事的意味合いを抜きにして語れない。
●米国防総省が報告書で警告
米国防総省は5月2日、中国の軍事力に関する年次報告書を発表し、中国が建国100周年の2049年に「世界一流」の軍事力を持つという公式目標の下に、インド太平洋地域で突出した大国になることを目指し、軍の近代化を続けていると総括した。
その上で、一帯一路を大国化実現の手段の一つと説明し、同構想の関連事業の安全を守る必要から、中国は海外での軍事基地設置に突き進むだろうと予想した。
中国は2017年に海外における初の軍事基地として、アフリカ北東部のジブチに海軍基地を開設した。国防総省の報告書は、中国が追加的な軍事基地を建設する候補国として、長年の友好国であるパキスタンを挙げた。また、国際報道を引用する形で、中国が中東、東南アジア、西太平洋にも軍事基地や港湾の軍事利用権を広げようとしていると警告した。
北極圏については、中国が2018年1月に「極地シルクロード」の開発を推進する方針を打ち出し、現代版シルクロード構想とも呼ばれる一帯一路の一部としての位置付けを北極圏に与えた。年次報告書は「核攻撃への抑止力として(中国が)潜水艦を北極海に展開する可能性」を指摘し、米国を射程内に収める潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を搭載した中国原潜が北極海に配備されるかもしれないことに警鐘を鳴らした。
●日本の対中協力条件に疑問あり
年次報告書は、一帯一路が中国の意図について懸念を生んだため、中国指導部はこの構想を売り込む際の言い回しをソフトにしたが、「(同構想の)基本的な戦略目標に変更はない」と述べ、一帯一路に中国の大国化実現の狙いがあることに変わりはないとの見方を示した。
そうであるなら、日本政府が条件付きで一帯一路への協力を表明していることは疑問である。その条件はプロジェクトの透明性、開放性、経済性、援助受け入れ国の財政健全性の四つだが、全て経済的な条件であり、一帯一路が内包する軍事的な問題点すなわち安全保障上の懸念を無視している。
中国国営新華社通信によると、一帯一路の第2回国際協力フォーラムに安倍晋三首相の特使として出席するため4月末に北京を訪れた二階俊博自民党幹事長は、24日の習近平中国国家主席との会談で、「(一帯一路は)極めて大きな潜在力のある壮大な構想で、日本は中国がこの構想を通じ、世界と地域に重要な貢献をしていることを前向きに評価している」と語った。外交辞令であることを割り引いても、認識が甘すぎないか。(了)