公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

西岡力

【第593回】緊迫する韓国政治情勢

西岡力 / 2019.05.20 (月)


国基研企画委員兼研究員・麗澤大学客員教授 西岡力

 

 韓国の文在寅政権に対して「独裁」だという批判の声が出ている。文大統領が5月で就任から2年を迎えた。現行憲法では任期は5年で1期のみだから、文大統領は任期の4割を超えたところになる。
 就任2周年を期して公共放送であるKBSが大統領の特別インタビュー番組を放映した。そこで聞き手の女性記者が「(第1野党の)自由韓国党が大統領を独裁者だと言っているが、どう思うか」と質問した。
 この記者に対して政権支持者から激しい非難が集まり、家族の実名や顔写真が公開され、本人と家族が身の危険を感じるほどだという。

 ●保守野党が政権を「独裁」と批判
 自由韓国党は全国で大規模な街頭集会を続け、「独裁」阻止を叫んでいる。集会での黃教安同党代表の演説内容を紹介する。黃代表は朴槿恵前政権で法相、首相を歴任した公安検事出身のエリート法務官僚で、文政権と戦うために今年2月に政治の世界に飛び込んだ。世論調査で現在、次期大統領レースのトップにつけている。
 「文在寅政権の左派独裁をいま終わらせなければならない。文政権はまず行政府を掌握した。その後の行政府は自由民主主義国家の行政府ではない。大統領と政治の実権を握る勢力の行政府になった。司法府もほぼ占領された。最高裁の長官と判事は、みな特定のグループの者たちが任命されている。文政権は国会さえも掌握しようとしている。選挙法を第1野党との合意なしに、与党に絶対に有利な連動型比例代表制(比例代表を増やし、与党が左派群小政党と連立すれば、半永久的に政権を維持できる選挙制度)に作り替えようとしている」
 「検事と裁判官も含む高級公務員を捜査する専門の捜査機関である『高級公職者不正捜査処』(公捜処)を新設しようとしている。大統領やその家族、側近、政府与党幹部らの不正を検察が捜査しようとしても公捜処がその案件を持って行ってしまい、政府与党に不利な捜査や判決を行う検事や判事は公捜処に捕まってしまう。まるで独裁国家の政治警察だ」
 「自由韓国党は命懸けの戦いの先頭に立つ、血を流して戦うから、国民の皆さんも犠牲を覚悟して立ち上がってほしい。そうしないと、次世代の息子、娘らは左派独裁の下で暮らすことになる」

 ●与野党の支持率接近
 5月9日の世論調査(リアルメーター発表)では、文政権の支持率は47.3%、不支持率は48.6%で、支持と不支持が拮抗した。政党支持率は与党「共に民主党」が36.4%、自由韓国党が34.8%だった。支持率の開きは文政権発足後で最小になった。しかし、極左の正義党の支持率が8.3%だったから、全体としてみれば保守派はまだ少数だ。
 韓国は選挙を通じて左派独裁を自ら招いたベネズエラのような国になるのか。朝鮮半島全体が全体主義勢力の手に落ちて、核を持つ反日統一国家が日本の前に出現するのか。自由で豊かな先進国に韓国を戻すため、自由韓国党など反共自由民主主義勢力が命懸けの戦いに挑む。情勢は緊迫し、予断を許さない。(了)