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石川弘修

【第607回・特別版】「慰安婦」英訳本に日本研究特別賞

石川弘修 / 2019.07.16 (火)


国基研理事・企画委員 石川弘修

 

 国家基本問題研究所は、今年の日本研究賞の特別賞を現代史家の秦郁彦氏の英訳本 Comfort Women and Sex in the Battle Zone(慰安婦と戦場の性、米ハミルトンブックス)に授与した。奨励賞には、神戸大大学院法学研究科・簑原俊洋教授の「アメリカの排日運動と日米関係 『排日移民法』はなぜ成立したか」(朝日新聞出版)と、ペマ・ギャルポ拓殖大学国際日本文化研究所教授の「犠牲者120万人 祖国を中国に奪われたチベット人が語る 侵略に気づいていない日本人」(ハート出版)の2作品を決めた。7月10日、東京・内幸町のイイノホールで授賞式が行われた。

 ●秦氏の実証研究に高い評価
 日本研究賞はこれまで、外国人による研究を対象とし、日本への深い理解を示すか、新たな視点を提供あるいは問題を提起する著作を表彰してきたが、今年の第6回は特例として、日本人の秦氏への特別賞授与を決めた。
 受賞作は1999年に日本で出版された原著の英語版だ。秦氏は同著で、①韓国寄りの日本人学者でさえ、朝鮮半島で慰安婦を強制的に連行した証拠はないと言っている②推定2万人の慰安婦のうち、最も多いのは日本人の8000人で、朝鮮半島出身者は4000人にすぎない―と論じ、慰安婦研究に一石を投じた。この著書を米国人の歴史研究者が分かりやすく翻訳し、米国の大手出版社から発行された。
 米マイアミ大学のジューン・ドレイヤー教授(第4回日本研究賞受賞)が書評で「事実を公平に提示して、結論を読者に委ねている」と書いたように、自らの主張を抑えた実証研究への評価が高い。
 国基研事務局には時々、慰安婦は強制連行されたのかとか、慰安婦は韓国人だけだったのか、といった疑問が海外から寄せられる。秦氏はそうした疑問に回答を示した。しかし、秦氏が受賞スピーチで明らかにしたように、日本人の元慰安婦で体験を語ってくれたのは、僅か1人、しかも、身元を明らかにしないという条件付きだった。日本と韓国の文化の違いの大きさなのか。

 ●チベットの悲劇を繰り返すな
 奨励賞の簑原教授は、カリフォルニア州出身の日系4世。同州で広がった排日運動は第1次と第2次の排日土地法(1913年と1920年)を経て、連邦政府の排日移民法の成立(1924年)に至るが、排日問題がどのように日米関係に影響を与えたかについて検証している。
 ペマ氏は、中国の領土拡張の犠牲となった祖国チベットから逃れて来日、篤志家の援助で日本の中学、高校、大学教育を受けた。2005年には日本に帰化。その間、日本人が中国の脅威に対し、あまりにも無自覚であることに危機感を抱くようになった。自らを温かく迎え、育ててくれた日本への恩返しとして、チベットの悲劇を繰り返すな、と強く警告する。(了)