公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

太田文雄

【第606回】自国船防護を他国に委ねれば笑いものに

太田文雄 / 2019.07.16 (火)


国基研企画委員兼研究員 太田文雄

 

 9日、ダンフォード米統合参謀本部議長(海兵隊大将)が、ペルシャ湾の出入り口のホルムズ海峡や紅海の出入り口のバブエルマンデブ海峡におけるタンカーなどの航行の安全確保のため、数週間以内に同盟諸国の軍と有志連合を結成し海上護衛活動を行う考えを明らかにした。議長は「指揮統制を行う旗艦は米国が提供するが、実際の哨戒と護衛は各国によって行われる」としている。
 日本は輸入する石油の87.3%(2017年度)を中東に依存しており、実際に日本の海運会社が運航するタンカーがホルムズ海峡付近で先月、吸着機雷によって攻撃され、被害を受けた。当然、日本は自国の船舶護衛のために海上自衛隊を派遣すべきであろう。

 ●有志連合不参加なら情報が得られない
 筆者は1990年代、在米日本大使館の武官であった。中東で、今回のような危機が発生し、各国の武官が統参本部第5部に集められ、どのような支援ができるかを持ち寄ることになった。当時はまだ平和安全法制が整備されておらず、当然のことながら日本からはゼロ回答であった。統参本部で担当していた准将は「兵力を送らない国は、今後この会合に参加しなくて良い」とし、以後、関連情報を提供してくれなくなった。
 日本としては、どのような勢力が船舶攻撃をしようとしているのか、またその手段は、といった貴重な情報は、兵力を送る国に対してのみ提供されるという冷厳な現実を認識する必要がある。
 米国が提案する有志連合に参加すれば、これまで友好的な関係を保ってきたイランとの関係は微妙になる可能性はあるが「自国の船を自国で守る」という原則で理解を求める以外にないであろう。

 ●中国は軍事プレゼンス拡大へ
 我が国以上に、中東にエネルギーを依存しているのは中国である。当然、中国は米国に頼まれなくても自国の船舶防護のために海軍を派遣するであろう。既に、バブエルマンデブ海峡に面するアフリカ北東部のジブチには、大きな軍事基地を構築した。中国は広域開発構想「一帯一路」の一環としてパキスタン南西部のグワダルに港湾整備のための投資をしてきた。中国は危機を機会に変える天才であり、この商用港を軍事転用できる良い口実ができたとほくそ笑んでいるかもしれない。
 2008年にバブエルマンデブ海峡に近いアデン湾周辺の海賊に対処するか否かが議論になった際、先に中国が海軍を派遣したため、日本は取りあえず自衛隊法82条に基づき「海上における警備行動」を発令し、海上自衛隊の護衛艦と哨戒機を派遣。その後、自衛隊の活動の根拠法として海賊対処法を制定した。
 今回も同じようなやり方になるのか、あるいは3年前に整備された平和安全法制は成立過程でホルムズ海峡での機雷対処も念頭に置いているので、タンカー攻撃を限定的な集団的自衛権の行使が可能な存立危機事態または米軍などへの後方支援が可能な重要影響事態と認定するのか。いずれにしても、自国の船舶防護を他国に委ねるという選択肢は、国際的に笑いものになるだけである。(了)