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細川昌彦

【第640回・特別版】日韓の輸出管理対話をどう見るべきか

細川昌彦 / 2019.12.11 (水)


中部大学特任教授 細川昌彦

 

 来週、日韓の輸出管理に関する局長級対話が開催されることに注目が集まっている。
 今回の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を巡る騒動は韓国の独り相撲だった。当初、韓国の文在寅政権は日本の輸出管理強化への対抗措置としてGSOMIA破棄のカードを切った。そうすれば米国は破棄を回避するために韓国だけでなく日本へも働きかけ、日本を輸出管理強化の撤回へ追い込めるとの思惑だった。そのためにGSOMIAと輸出管理という別次元の二つの問題をリンクさせることに腐心した。

 ●韓国は「協議」と強弁
 日本もそれは百も承知で、両問題が全く無関係であることを説明し続けた。結局、韓国の目論見は外れ、米国はGSOMIAの失効が米国の安全保障を脅かすと受け止めて、韓国への圧力を強めた。文政権は追い込まれ、GSOMIAを継続せざるを得なくなった。あとは国内からの批判を避けるために、どうメンツを保つかだ。ポイントは韓国がGSOMIAの失効を回避するという方針転換と同時に、日本にも輸出管理問題で譲歩させたと国内向けに強弁することだ。
 例えば、輸出管理に関する局長級対話を「協議」と言い換えて、日本が譲歩したように見せかけた。「日本の輸出管理強化措置の撤回に向けて交渉する」と国内的に言えるようにするためだ。「協議」とは国同士の交渉の場であるのに対して、「対話」は単に意見交換して理解を深め合うものだ。しかし、輸出管理対話は互いの理解を深め合う場で、日本の措置の撤回へ向けた協議ではない。そもそも輸出管理は各国が判断して行うもので、相手国との交渉にはなじまないことは国際的にも常識だ。

 ●日本の措置の見直しはあるか
 今後、輸出管理の対話はどうなるのか。日本の措置が見直され、あるいは撤回される可能性はあるのか。
 もちろん、対話の場で撤回の要請をするのは韓国の勝手だ。しかし、あくまでボールは韓国側にある。韓国が自国の輸出管理の問題を改善しない限り、何も事態は変わらないのだ。
 韓国は審査する人数が極端に少なく、審査体制が脆弱である。法制度も他国と比べて不備が指摘されている。単に審査の人数を増やせばいいのではない。その結果、きちんと審査がなされることが大事なのだ。法制度も不備を直して実効的であることが大事だ。輸出管理の目的を考えれば当然だろう。こうした行動の結果を確認して、大丈夫だと日本政府が判断する必要がある。それを確認する場が「対話」だ。1回対話をすれば解決するという問題ではない。
 そして、それらを判断材料にして、日本は自国の輸出管理の運用の意思決定をする。その結果、韓国の扱いが変わる可能性ももちろんあるだろう。
 また、輸出管理の問題は、GSOMIAだけでなく朝鮮人戦時労働者の問題ともリンクしないことが重要だ。あくまでも輸出管理の論理で完結し、戦時労働者問題への対抗措置ではないことを明確にする必要がある。輸出管理問題が国際的に理解を得るためにも、それは不可欠だ。(了)