公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

島田洋一

【第639回】イランをテロ国家と認識せよ

島田洋一 / 2019.12.09 (月)


国基研企画委員兼研究員・福井県立大学教授 島田洋一

 

 イランのロウハニ大統領が近く訪日予定という。12月3日に大統領特使として来日し、安倍晋三首相と面会したイランの外務次官が希望を伝えた。その後、NHKの取材に応じた同次官は「日本はイランにとって経済的なパートナーだ。イランはずっと日本に原油を供給してきたし、日本はイランに技術を提供してきた。これまでと同様の関係を継続したい」と述べている。
 イラン側の狙いが、日本との「伝統的な友好関係」を強調し、米国主導の制裁に風穴を開けることにあるのは明らかだ。
 危ういのは、「伝統的な友好関係」といううたい文句を無邪気に信じている政治家が日本に多いことである。

 ●米欧の厳しい目
 一方、米国の認識はどうか。トランプ大統領は9月24日の国連総会演説で次のように述べている。
 「イランの抑圧政権の死と破壊の記録は誰もが知るところだ。イランは世界一のテロ支援国家であるのみならず、シリアとイエメンにおける悲劇的な戦争の火に油を注ぎ続けている。…イラン国民には、貧困を減らし、腐敗を撲滅し、雇用を増やす政権を持つ資格がある。海外および国内での虐殺のため、国民のカネを盗む政権ではなく」。
 12月6日に記者会見したフック米国務省イラン担当特別代表は、ガソリン値上げに端を発した11月半ば以来の抗議活動をイラン政府が暴力的に鎮圧し、1000人以上の死者が出たと述べた。併せて、イラン製の高性能武器やミサイル部品を積んでイエメンへ向かっていた船を11月25日に拿捕したとも発表している。「海外および国内での虐殺のため、イラン国民のカネを盗む政権」の実態を示したわけである。
 こうした認識は米国だけのものではない。9月14日、サウジアラビアの重要石油施設が無人機と巡航ミサイルによる攻撃を受けたが、直後に各種証拠からイランの犯行と断定した米国と並び、英仏独3カ国も「この攻撃の責任がイランにあるのは明らかだ。他に妥当な説明はできない」との共同声明を出した(9月23日)。
 また、イラン政府が欧州に暗殺部隊を送り込み、亡命中の民主活動家らを殺害したとして、今年1月、欧州連合(EU)は対イラン独自制裁を発動している。

 ●無為無策の日本
 こうした事実を知る日本の政治家はほとんどいないだろう。しかし、イランが北朝鮮と組んで核ミサイル開発に邁進してきた事実を知らないでは済まされない。日本も「イランはテロ国家」との認識を基本に置く必要がある。
 フック氏は「イランがもう一度サウジの石油施設を攻撃すれば大戦争になる」とも言う。少なくともトランプ政権の間は、米国が制裁を緩めることはない。追い詰められたイラン指導部が、国内の不満をそらすため、対外戦争に出る可能性は十分ある。ところが日本は、漫然と石油の中東依存率を9割近くまで高めてきた。最近の国会で「イラン」や「中東石油途絶」は全く議論されなかった。恐るべき無為無策と言わねばならない。(了)