11月23日、ローマ教皇フランシスコは日本へ向かう機中から中国、台湾、香港の指導者にメッセージを送った。香港ではキリスト教信者の一部が大規模デモの人道的解決へ向けて教皇の介入を求める署名活動を行っていたにもかかわらず、教皇は香港で抗議活動をする人達に言及しなかった。また、欧州国家のうちバチカンのみが外交関係を持つ台湾に対しても、儀礼的なメッセージしか発しなかった。
香港で民主派が圧勝した区議会選挙直後の26日、日本からローマへ戻る機中での会見でも、教皇は香港の抗議活動に関する質問に対し、「世界各地に問題を抱えた場所がある」としてはぐらかし、代わりに「北京に行きたい。中国は大好きだ」と述べた。
昨年9月に司教任命問題で対立してきた中国と暫定合意に達し、中国との関係を損ねたくないため、現実的な対応を見せたのだろう。しかし、現実的な対応をするなら「核抑止力も違法」とか「原子力発電は使うな」などと非現実的なことを言わないでもらいたいと思う。
●中国共産党と妥協したバチカン
中国は建国以来、キリスト教を徹底的に弾圧してきた。北京は政府系の中国天主教愛国会を介してカトリック教会を監督しているが、この公認教会の外に、ローマ教皇に従う地下教会がある。中国には約100人の司教がいるが、うち65人が公認系、36人が地下系であり、昨年の暫定合意後は公認系全員がバチカンからも認知されている。
習近平政権は、これまでバチカンが拒否感を持つような司教を任命してこなかった。また、地下教会を管理下に置きたいところであるが、抵抗が多いため強行することは避けている。2017年の共産党大会活動報告で習主席は「宗教の中国化」を唱え、党による宗教締め付け強化に邁進しているかのように見えるが、実態は共産党とカトリック教会には暗黙の共存関係が存在する。
その事実を知っている教皇は、敢えて中国を苦境に陥れるような言葉を吐かず、政治的な対応をしていると言える。かつて教皇はキューバの最高指導者だったフィデル・カストロを褒めたたえたことから、出身国アルゼンチンではマルキスト聖職者と呼ぶ人すらいる。
●北京で核廃絶を説いたら?
日本が米国の核の抑止力に依存しているのは、北朝鮮、中国、ロシアといった核保有国が近くにいて、運搬手段であるミサイルを質量とも強化しているからである。それに目をつぶって、核を保有していない我が国で「核は国を守らない」「抑止力も違法」と言い、核装備を増強している中国に対して「大好き」と述べることには首を傾げざるを得ない。「北京に行きたい」というのであれば、北京で核廃絶を説いたらどうか。(了)