公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

島田洋一

【第637回】中国に立ち向かう姿勢を強化せよ

島田洋一 / 2019.12.02 (月)


国基研企画委員兼研究員・福井県立大学教授 島田洋一

 

 11月24日、香港の区議会選挙で民主派が圧勝した。中国本土でも、公正な選挙が行われれば共産党が権力を失うだろうことを強く示唆する結果である。中国共産党政権(以下、中共)は、ますます言論抑圧、普通選挙の阻止に邁進するだろう。
 11月27日、トランプ大統領の署名を経て、米国で香港人権民主法が成立した。香港の「市民的自由」と「自治」の状況を毎年議会に報告するよう政権に求め、「米国市民を中国本土へ引き渡しかねない法律を香港が提案ないし施行したと判断した場合」、大統領は米国市民を保護する「戦略」を講じねばならない等が骨子である。中共への牽制効果が見込まれ、香港民衆を大いに鼓舞した。このくらいの法案は日本の国会も超党派で通すべきだ。

 ●香港・ウイグル人の人権侵害
 時を同じくして、中共による凄惨なウイグル人弾圧を裏付ける内部文書が複数流出した。近年、国際法の分野では、国家が領域内の住民の「保護責任」を果たさず、「人類の良心に衝撃を与える」危機的状況が発生した場合、国際社会による「人道的介入」が正当化されるとの議論が盛んである。しかし国連には期待できない。
 国連人権理事会(総会で選ばれる47の国で構成)は、理事国が関わる人権問題は追及しないのを不文律としており、事実上、人権抑圧国の談合組織と化している。安保理で人権問題を取り上げようとすると、主に中国が拒否権を盾に「人権は安保理の所掌外。議論は人権理事会で」と主張し、人権理事会ではやはり北京主導で握りつぶすのが通例となっている。結局、中共の人権抑圧、知的財産権盗取、領域侵犯等には、有志諸国が連携して圧力を強めていくしかない。
 ところが日本政府は、中共トップの習近平氏を国賓として招待する方向で動いている。国会も一部を除き何の問題意識も示していない。香港住民やウイグル人の目には、背信的な擦り寄りと映ろう。

 ●習氏国賓招待で落ちる日本の評判
 安倍首相が習氏と実務的な会談を重ねるのは一向に構わない。相手がファシストであっても、適宜交渉し、意思疎通を図るのが政治家の役目だ。しかし、国賓招待(閣議で決まる)となれば、日本の伝統と文化を体現する「両陛下はじめ皇族方が心をこめたご接遇」(宮内庁)を強いられる。皇室を宥和外交に巻き込むことは許されない。かつて、ヒトラーと組んだ日独伊三国同盟で、日本の国際的イメージは地に堕ちた。その轍を踏むことになりかねない。
 トランプ氏は香港人権民主法に熱心でなかった。議会の圧倒的多数の意思にあらがえず、署名した格好である。しかし、中共への経済的圧迫はトランプ氏が主導してきた。総体としての米国は着実に中共への圧力を強めている。対決を辞さない姿勢の背後には、国力で中国に勝るとの自信がある。
 日本も、国の「体幹」に当たる軍事力、エネルギー自給力の充実を図らねばならない。また国会は、自由民主主義国にふさわしく、国賓は普通選挙実施国の元首に限るとする「国賓法」を制定すべきだろう。(了)