公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

髙橋史朗

【第647回】体罰禁止で躾を否定する愚

髙橋史朗 / 2020.01.14 (火)


国基研理事・麗澤大学大学院特任教授 髙橋史朗

 

 改正児童虐待防止法が4月に施行されるのを前に、厚生労働省は昨年12月3日、体罰に関する指針案を公表した。広く国民の意見を聴いたうえで、3月に指針を確定する。指針案には「身体に何らかの苦痛又は不快感を引き起こす行為(罰)は、どんなに軽いものでも体罰に該当し、法律で禁止する」とある。しかし、「体罰」と自立心や忍耐力、基本的生活習慣を育む「しつけ」とは全く違う。体罰禁止の名の下に、躾一般を否定するという風潮が広まれば、教育荒廃に拍車をかけることになる。

 ●躾重視に転じた欧米
 教育基本法第10条は「生活のために必要な習慣を身に付けさせるとともに、自立心を育成」する第一義的責任は、「父母その他の保護者」にあると明記している。また、平成21年4月28日の最高裁判決は、男児の胸元をつかんで壁に押し当てて大声で叱った教員の行為について、「教育的指導の範囲を逸脱せず、体罰には当たらない」と判示した。
 基本的生活習慣や自立心を育てるには、親や保護者による指導や躾が必要不可欠である。教育における自由のはき違えによって学力と規律が低下した米国は、1983年に政府報告書「危機に立つ国家」を出し、当時のベル教育長官が「日本に学べ」と訴えた。
 民主党のクリントン政権下で、子供を大目に見ない「ゼロトレランス方式」を採用し、同政策を実施したニューヨーク市では、5年間で殺人が68%、強盗が54%減少し、治安が回復した。
 英国では1997年に「子育て命令法」を定め、子供の不登校に対して保護者に罰金を科し、1998年に改正されたフランスの義務教育法でも、保護者に2年の禁固刑、20万フランの罰金を科した。

 ●「親育ち」へ家庭教育支援法制定を
 こうした世界的動向を踏まえて、日本の文科省も問題行動対策にゼロトレランス方式を取り入れ、政府の「次代を担う青少年について考える有識者会議」報告書(平成10年)は「『地獄への道』は、『教育的配慮』という『善意』で敷き詰められている」と警告した。
 子供の最善の利益のためには、優しさと厳しさのバランスが最も大切である。子供の発達段階に応じて、躾などの関わり方を教える家庭教育支援の専門職を育成し、親支援を行った結果、児童虐待が6割も減少したという報告もある。
 深刻な児童虐待問題の解決には、「子育て」ならぬ「親育ち」支援を目指す「家庭教育支援法」の制定こそが時代の要請なのである。(了)