公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

伊原吉之助

【第653回】新型肺炎で露呈した中国隠蔽体質

伊原吉之助 / 2020.01.27 (月)


帝塚山大学名誉教授 伊原吉之助

 

 新型コロナウイルスによる肺炎が中国湖北省武漢で発生し、1月27日朝現在、中国の発症者が2744人、死者80人となった。中国当局は、人口1100万人の巨大都市・武漢市とその周辺を封鎖した。武漢市民は逃げ出したいのに出て行けなくなった。
 但し、幾ら封鎖しても人は動くから、この新型肺炎の発症者は既に、近隣地域を中心に各国へ拡散中である。香港、タイが各8人、米国、マカオが各5人、豪州、台湾、日本、シンガポール、マレーシアが各4人、フランス、韓国が各3人、ベトナム2人、ネパール1人となっている。
 これが習近平政権にどんな影響を及ぼすだろうか。

 ●目に余る対応の遅れ
 かつて2002~2003年に重症急性呼吸器症候群(SARS)が大流行したとき、中国当局の隠蔽体質により対応が遅れた苦い経験がある。そのとき活躍した香港大学の管軼教授は今回も21日と22日に武漢市で現地調査を行い、市場の衛生状態の悪さやマスク着用をしていない実態に呆れ、住民と当局の衛生意識の低さに驚いて、こんなことでは「新型肺炎の蔓延を到底制御できない」と嘆いていわく、「慎重に見積もっても感染規模はSARSの10倍以上になる」と述べた。最長14日間の潜伏期にも感染するので、患者の爆発的増大が見込まれる一大緊急事態なのである。
 中国当局は、悪い情報を隠蔽する体質がある。先ず、地方政府が中央政府に発生を隠す。発生したのが昨年12月8日、中央が把握したのが12月30日。多数の患者を生んだ武漢の海鮮市場の閉鎖が今年の元旦。湖北省政府が武漢を封鎖したのが今月23日。発生時期はまずいことに春節(旧正月)直前だった。春節とは中国国内で延べ30億人が移動する時期である。春節の帰省客のピークは20日だから、23日の封鎖は手遅れだった。
 内外で高まる隱蔽体質批判を意識する習近平指導部は25日、党政治局常務委員会を開き、習近平党総書記が「感染の蔓延が加速する深刻な情勢にある」と指摘しているから、緊急事態との認識はできている。この会議で新型肺炎対策の專門チームを設置することを決め、臨時病院建設を含む緊急措置を講じた。海外団体旅行も27日から禁止した。
 今回の病原体のコロナウイルスは、SARSを起こしたウイルスに近いとされるが、SARSウイルスに対する抗ウイルス薬もワクチンもまだ実用化されていない。

 ●強まる情報公開の要求
 さて結論。新型肺炎は、習近平政権の隠蔽体質を若干緩和する方向に向かうかもしれない。少なくとも、発症者を抱え込まされた各国は、習政権に情報公開を求める筈だ。でも、それで習政権の隱蔽体質が改まるとも思えない。(了)