公益財団法人 国家基本問題研究所
https://jinf.jp/

今週の直言

細川昌彦

【第663回】新型コロナ特措法で問われる知事の力量

細川昌彦 / 2020.03.16 (月)


国基研企画委員・中部大学特任教授 細川昌彦

 

 新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐための新型インフルエンザ対策特別措置法改正案が成立し、施行された。
 国会審議の焦点は「首相による緊急事態宣言」であった。宣言を出すにあたっては専門家による諮問委員会に諮ることになっているが、さらに付帯決議で国会への事前報告が求められた。私権を制限することに慎重であるべきであるとの意図は理解できる。しかし、もっと着目すべきは、緊急事態宣言を受けて、都道府県知事がどのように具体的な措置を講じるかだ。

 ●有事で見えるリーダーの優劣
 今回も北海道知事は、国に先駆けて学校の休校や外出自粛の要請を出している。改正法によって、こうした措置に法的な根拠を与えて、イベント自粛などで損害が生じた者からの訴訟リスクを避けることになる。大事なのは知事の危機管理能力が問われるということだ。
 これまでを見ても、民間病院での感染者発生で和歌山県が徹底追跡調査を行うことによって早期再開にこぎつけた。また、感染者の追跡調査のためにクラスター(集団)感染源の店名の公表にあえて踏み切った自治体と、躊躇する自治体が出た。大阪府は医療崩壊を避けるために軽症者は入院ではなく自宅待機にするといった独自の基準を設けたが、国の基準どおり軽症者も入院させて病床数が足りなくなる瀬戸際の自治体もある。
 まさに平時と違って不確実性の中で、有事こそリーダーの意思決定の巧拙が見えてくる。

 ●地域ごとに必要な危機への備え
 日本全国での感染流行の動態グラフが繰り返し報道されているが、医療対応の限界を超えないためには、このグラフを都道府県ごとに作って地域でのシナリオ作りをしなければならない。
 さらに地域の社会、経済活動へのダメージを最小にして感染拡大阻止の効果を最大にする方策は、それぞれの地域の実態に応じて異なって当然だ。地域の専門家、医師会、経済団体、国の出先機関などによる協議の場を設けて、具体的な措置の選択肢、優先順位などを予め議論しておく必要がある。これまで策定している行動計画も新型コロナの特性に応じて早急に見直すべきだ。知事においても危機管理での意思決定プロセスに迅速性、透明性が必要なのだ。住民への説明など広報の体制も重要だ。
 また都道府県ごとだといっても広域連携も併せて必要だ。今回も和歌山県の検査体制の弱さを近隣の大阪府が補っている。
 こうしたことは緊急事態宣言が出されてからではなく、予め備えを用意しておくべきだろう。これまで地方分権を求めてきた知事たちは、こうした有事にこそ力量を発揮すべきだ。新型コロナ特措法で自治体力の真価が問われている。(了)