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石川弘修

【第666回・特別版】ジャパン・タイムズの慰安婦表記再変更を憂える

石川弘修 / 2020.03.30 (月)


国基研理事兼企画委員 石川弘修

 

 日本の日刊英字紙ジャパン・タイムズが3月20日、半ページ大の社告を掲載、一昨年11月に変更した戦前、戦時中の慰安婦の英文説明を再変更すると発表した。異例の再変更は、慰安婦募集に強制性はなかった歴史的事実から一歩後退し、日本兵との性行為を強要されたという元の表現への実質的な回帰が懸念される。

 ●「戦時労働者」は維持
 新たな方針では、慰安婦を「日本の戦時娼館システムに強制的に組み入れられた女性たち」(women who were forced or coerced into Japan’s wartime brothel system)あるいは「日本の軍隊の娼館システムの下で苦しんだ女性たち」(women who suffered under Japan’s military brothel system)と説明することになった。この二つを合わせると、日本軍と強制が連動して、「日本兵へのセックス提供を強要された女性たち」(women who were forced to provide sex to Japanese soldiers)という最初の変更前の表現に近づくことになる。
 慰安婦に関しては、官憲による強制連行を裏付ける客観的資料は存在しない。昨年韓国で出版され、日本でもベストセラーとなった「反日種族主義 日韓危機の根源」の編著者、李栄薫元ソウル大学教授も、強制連行を否定している。
 一方、ジャパン・タイムズの社告は、戦時中のいわゆる徴用工について、一昨年、それまでの「強制労働者」(forced laborers)という表記を「戦時労働者」(wartime laborers)と変更したのは適切であるとして、変更後の表記を引き続き使用することを確認した。

 ●憂慮される編集トップの退任
 社告発表以上に憂慮されるのは、25日に堤丈晴社長と水野博泰編集主幹が退任した人事である。特に水野氏は、2017年にジャパン・タイムズ社が経営不振から売却され、現在の末松弥奈子氏が代表取締役に就任した後、編集主幹として招かれ、以来、慰安婦などの表現変更を含め、左派色が濃かった紙面の改革に取り組んできた。
 水野氏は、かつて「アンチ・ジャパン・タイムズ」と揶揄やゆされるほどだった同紙の偏向を是正するため、過去1年半にわたりほとんど全ての記事をチェックし、バランス回復に努めてきた。水野氏の編集路線には社内で強い抵抗もあり、ロイター通信の報道によると、昨年の編集会議では大きな混乱があったという。堤社長は、経営悪化の責任を取って退任した、と同通信は伝えている。
 4月から末松会長が新社長となり、経営の立て直しを図るという。ただ、約130人の社員はほとんどが前からのジャパン・タイムズのスタッフであり、特に編集面で左派系の外国人や日本人記者が影響力を盛り返す可能性も強い。部数約4万のジャパン・タイムズ紙は邦字紙に比べ規模こそ小さいが、海外発信力は大きい。連日続く新型コロナウイルス報道の陰に隠れているものの、今後の展開によっては、同紙が再び反日色を強め、欧米のリベラル、左派勢力との連携を進めかねない。(了)