公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

太田文雄

【第665回】コロナ対策で協力しても対立深める米中

太田文雄 / 2020.03.30 (月)


国基研企画委員兼研究員 太田文雄

 

 トランプ米大統領と習近平中国国家主席は27日、電話会談を行い、新型コロナウイルス対策で協力していくことで合意した。しかし、コロナウイルスという共通の脅威が存在しても、米中間では台湾や南シナ海をめぐって軍事的な対立が激しさを増している。当面の協力に目を奪われることなく、複眼的に米中関係を捉える必要がある。

 ●台湾周辺で高まる軍事的緊張
 今月18日の台湾英字紙・台北タイムズによれば、中国空軍の戦闘機J11と空中管制機KJ500が初めて夜間に台湾の防空識別圏近くに飛来し、台湾空軍の戦闘機F16がこれを追い払った。
 中国共産党機関紙・人民日報系列の環球時報は20日、中国海軍のミサイル駆逐艦1隻とフリゲート艦2隻が補給艦を伴って沖縄県の宮古島東南約80カイリの海域を航行したと報じた。
 同日の台湾英字紙・台湾ニュースは、10隻の中国高速艇が複数の台湾の沿岸警備艇に体当たりをしたと伝えた。
 さらに、米国の自由アジア放送は24日、中国の海上民兵が係争中の南シナ海のスプラトリー(南沙)諸島周辺に展開していると報じている。
 東シナ海では、日本の尖閣諸島周辺で27日、中国海警局の船が22日連続で航行しているのが確認された。
 中国のこうした動きに、米国が手をこまぬいているのではない。米海軍のミサイル駆逐艦マッキャンベルは10日に南シナ海で、中国が領有権を主張するパラセル(西沙)諸島から12カイリ以内を航行する航行の自由作戦を実施、そのまま26日には台湾海峡を通過した。
 そして22日の米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは、有事の際、中国海軍を南シナ海や東シナ海に封じ込めるため、米海兵隊が両海域に点在する小島に上陸し、中国軍の報復攻撃を避けて島々を転戦しながら中国艦隊を攻撃する計画であるとの特ダネ記事を掲載している。

 ●米で「台北法」が成立
 一方、台湾の外交的孤立を防ぐことを目的とする通称「台北法」(TAIPEI Act)が米議会の上下両院を全会一致で通過し、26日、トランプ大統領の署名により成立した。同法は、中国の圧力で台湾と断交する国が相次いでいることを念頭に、米政府に対し、「台湾の安全と繁栄を揺るがす諸国」との関係を見直し、台湾の国際機関参加を支援するよう求めている。
 新型コロナウイルスの蔓延まんえんに関しては、「中国で感染がぶり返し、習主席は国外に注意をそらせ、共産党を結束させるため、台湾を格好の標的とする」とする近未来シナリオを第一に掲げる論考をアメリカン・エンタープライズ研究所の研究者が25日に発表した。
 米海軍ではコロナウイルス陽性患者が乗組員に発見されたため、西太平洋に展開する空母2隻が作戦不能に陥っており、中国にこの地域でフリーハンドを与えかねない事態になっている。
 日本国内はコロナウイルスに関するニュース一色だが、そうした中でも台湾海峡、南シナ海、沖縄周辺での米中間のせめぎ合いは緊迫しているのである。旧日本海軍には「左警戒、右見張れ」という標語があった。複合危機に備える必要がある。(了)