6月15日、河野太郎防衛相は、山口県と秋田県に配備計画を進めていた地上発射型迎撃システム「イージス・アショア」について、「迎撃ミサイルの発射後に切り離されるブースター(第1段ロケット)を確実に陸上自衛隊演習場に落下させることができない」という理由で、計画を停止すると表明した。
敵の核弾頭搭載ミサイルが日本本土を襲えば、数十万、数百万の命が失われる。ブースター燃焼後の2メートル未満の空タンクが民家を直撃する可能性はゼロではないが、限りなくゼロに近い。いま問われているのは、この二つの被害のどちらを重要と見なすか、である。
●米は協議継続の意向
米国防総省のヘルビー次官補代理(インド太平洋安全保障担当)は、日本の計画が完全に撤回されたものではないとの認識を示し、「技術的な協議を継続する」と述べた。
小野寺五典元防衛相は、イージス・アショアを海上自衛隊の中古艦に搭載する案を示した。しかし、上部のレーダーが重いイージスシステムを旧式の護衛艦に搭載すれば、船の重心が上に移って転覆しやすくなる。
より可能性があるのは、ブースターの落下が問題ならばランチャー(発射装置)だけを洋上の固定施設に移す案である。レーダー及び指揮管制システムとランチャーを多少離したところで大きな影響はない。現に米海軍が採用している共同交戦能力(Cooperative Engagement Capability)は、一つの艦がレーダーで探知追尾している敵ミサイルを離れた別の艦のランチャーから迎撃することが可能となる能力で、今年3月に就役した海上自衛隊のイージス艦「まや」も同能力を備えている。
安倍晋三首相は18日の記者会見で敵基地攻撃能力の保有を検討する意思を示唆したが、イージス・アショアのランチャーは、敵基地攻撃に使えるトマホーク長距離地対地巡航ミサイルも将来的に発射できる。
●過酷となるイージス艦の負担
現役の海上自衛官からは「北朝鮮が弾道ミサイルを発射するかもしれないとの情報に基づいて緊急出港し、数ヶ月洋上で勤務して帰宅したら、布団はカビだらけ」といった生の声を聞く。本来であれば修理や整備、そして教育・訓練を経て実任務に配備されるところ、余裕がないために教育・訓練もそこそこに緊急出港する艦が少なくないのだ。
2017年に米海軍のイージス艦が連続して3件、民間船との衝突事故や座礁事故を起こした。事故の責任で解任された元第7艦隊司令官アーコイン退役海軍中将は、米海軍協会誌「プロシーディングス」2018年6月号に、人員と即応態勢の欠如が連続事故の原因であったことを記述している。
イージス・アショアの計画停止で、敵ミサイル迎撃の核となるイージス艦の乗員の負担が増せば、人員がただでさえ不足していることに加えて退職者が次々と出て、即応態勢にヒビが入るであろう。ブースターが落下する問題と国の安全保障とどちらが大切か、政治家に重い問いが突き付けられている。(了)