公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

ブラーマ チェラニー

【第708 回】日本は力の外交を展開せよ

ブラーマ チェラニー / 2020.08.11 (火)


(終戦75周年特別寄稿・中)
インド政策研究センター教授 ブラーマ・チェラニー

 

 長期化する日本の経済的苦境が国際的に注目されたせいで、非常に重要だがほとんど気付かれない動きが目立つことはなかった。その動きとは、世界第3の経済大国・日本の政治的台頭である。日本は安倍晋三首相の下で、安全保障体制の改革に着手し、進行しつつあるアジアの勢力均衡の形成に積極的役割を果たそうと努め、それによって、能力以下の仕事しかしないことをやめ、世界で分相応の地位を占めようとする決意を示している。
 ある意味では、日本は歴史上の役割を取り戻そうとしている。歴史的に日本は能力を超えると思われることをしてきた。第2次世界大戦の敗戦まで、その業績が傷つくことはなかった。近代日本の先駆者的役割は、他のアジア諸国をしばしば鼓舞した。日本はたいていアジアの先頭に立つことで、傑出していたからである。

 ●中国拡張主義と対決を
 明治時代、日本はアジアで初めて経済近代化に成功し、次いで日清、日露戦争に勝つことで、アジア初のグローバルな軍事大国となった。アジアの大半が欧州の植民地だった時代にロシアが日本に敗れたことは、アジアの独立運動のカンフル剤となった。第2次大戦で壊滅的敗北を喫しても、日本はすぐに焼け跡から立ち上がり、1980年代までにアジアで最初のグローバルな経済大国となった。
 経済規模で中国に抜かれたものの、日本の国民1人当たりの国内総生産(GDP)は依然として中国よりずっと多い。
 日本はアジア最古の自由民主主義国だが、中国の強引な拡張政策のせいで、安全保障上の差し迫った挑戦に直面している。中国は日本の施政下にある尖閣諸島の周辺海域に警備船を送り込み、日本の支配の弱体化と中国の領有権主張の強化を狙っている。
 日本は今日、厳しい選択に向かい合っている。安全を高めるか、包囲下に置かれるか、である。日本には安全を高める以外の選択肢はない。中国のたくらみに対し、今こそ日本が形勢を逆転すべき時である。中国の公船が日本の漁船を追い回すといった挑発行動に出るなら、日本はその公船を沈めるか航行不能にして、乗組員を拘束するなど、強い対応を取るべきだ。さもなければ、ますます日本は中国の拡張政策の矢面に立たされるだろう。

 ●大国化は日本の当然の権利
 米国の研究者ダン・トワイニング氏が書いたように、「日本帝国は核攻撃を受け、戦争に敗れ、武装解除され、占領され、自衛の権利を法制上持たない近現代史で初めての国に変容した。日本は70年以上の間、父祖の罪を償い、世界第3の経済大国の力を奪う平和至上主義の文化を受け入れてきた。日本はどこの国も脅かさない」。
 実のところ、日本にはうらやましい実績がある。大戦後、外へ向けて1発の弾丸も撃っていないことだ。しかも、何十年にもわたり、日本は主要な経済・人道援助国として、地域と国際社会の平和と安全に重要な貢献をしてきた。
 日本には、大国として再登場する十分な権利がある。自分の意思で自分を守れる強い自信に満ちた日本になれば、インド太平洋地域の平和と安定に大きく貢献する。(了)