公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

西岡力

【第710回】文政権下での日韓関係正常化は不可能

西岡力 / 2020.08.17 (月)


国基研企画委員兼研究員・麗澤大学客員教授 西岡力

 

 「日本に対話を呼びかけ」―。日本の多くのマスコミは8月15日の文在寅韓国大統領の演説にこのような見出しを付けた。しかし、その全文を読み、同じ式典でなされた光復会(独立運動家とその子孫の会)会長の祝辞を読むと、現政権下での日韓関係の正常化はほとんど不可能だと考えざるを得ない。

 ●空疎な対話呼びかけ
 文大統領はこう語っていた。
 「大法院(最高裁)は1965年の韓日請求権協定の有効性を認めつつも、個人の『不法行為賠償請求権』は消滅しなかったと判断した。大法院の判決は大韓民国の領土内で最高の法的権威と執行力を持つ。政府は司法府の判決を尊重し、被害者が同意できる円満な解決方法を日本政府と協議してきたし、今も協議の門を大きく開けている」
 戦時中の朝鮮人労働者問題については、日本で先に裁判が起こされ、最高裁で日本企業の勝訴が確定した。韓国の大法院は日本の判決を公序良俗に反するとして、その効力を否定した。日韓の司法が正面からぶつかっている。国家間の条約や協定を含む国際法は、国内法に優先する。国内の司法判断を理由に条約・協定の不履行を主張することはできない。日本政府は、韓国大法院判決により国際法違反状態が生まれたので、韓国政府の責任でこの状態を解消してほしいと繰り返し求めている。文大統領は演説で「国際法の原則を守るために日本と共に努力する」と言ったが、国際法を守る責任は韓国政府にある。共に努力する課題ではない。
 文演説では1945年8月15日の日本からの解放と北朝鮮との平和共存の重要性が強調されたが、48年8月15日の大韓民国建国について言及がなかった。文政権とそれを支持するグループは、韓国の建国を汚れたものと見なす歴史観を持っているのだ。
 
 ●露骨な反日歴史観
 金元雄光復会会長の祝辞はこの歴史観を露骨に示していた。元国会議員でもある金会長は、日本からの解放後、韓国民は1948年の「済州4・3抗争」(韓国建国に反対する共産勢力の武装蜂起)から2016年のろうそくデモ(朴槿恵大統領退陣要求)まで「親日反民族権力」に抵抗してきた、と驚くべき発言をした。「日帝の敗北後、米軍政を経て韓国政府が樹立された」と言って、建国という単語を使わない。
 その上、「李承晩(元大統領)は親日派と結託した。韓国は民族反逆者をまともに清算できなかった唯一の国になり、その歴史は今も続いている」「親日未清算は韓国社会の基礎疾患だ」と韓国の現代史を汚れたものと非難し、韓国の反共自由民主主義勢力を「親日民族反逆勢力」だとおとしめた。
 同じ日、ソウル中心部に10万人近くが集まって文在寅政権を糾弾した。コロナウイルス流行を理由にソウル市が集会を禁じた中で、暴雨にもめげず集まった参加者は「文在寅罷免」「この国はお前のものなのか」などと叫んだ。文在寅政権と与党の支持率が急落し、いま大統領選挙があれば野党候補に投票するという層が与党支持を上回る。反共自由民主主義勢力が政権を奪い返す可能性はある。ここに希望がある。(了)