公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

島田洋一

【第712回】バイデン陣営が答えるべきこと

島田洋一 / 2020.08.24 (月)


国基研企画委員兼研究員・福井県立大学教授 島田洋一

 

 中国共産党政権(以下中共)が覇権を握れば、自由で人間的な文明は地を払う。中共にどう立ち向かうか。世界が米大統領選の両候補に関し、最も注視するのはそこである。
 バイデン民主党大統領候補はオバマ政権の副大統領だった。2015年、訪米した習近平中国国家主席はオバマ大統領(当時)との共同記者会見で、①サイバー犯罪に共同で戦うとの重要合意に達した②(南シナ海の)南沙諸島での建設行為に軍事化の意図はない―と明言した。
 しかし、米連邦捜査局(FBI)によれば、それ以降、中共による知的財産の窃取行為(サイバー攻撃を含む)は一段と活発化している。南シナ海の軍事化も進む一方である。要するに、バイデン氏を含むオバマ政権は完全にコケにされた。トランプ大統領は「バイデンが当選すれば、中国が我々の国を乗っ取る」と言う。

 ●出てこない対中対抗策
 バイデン氏には、その経緯を総括し具体的対抗策を明示する責任がある。しかし、未だ為されず、失言を恐れて批判的メディアの質問も受け付けない。
 バイデン氏から今さら一般論を聞く意味はない。バイデン氏は「ジュージュー焼く音は聞こえるがステーキが出てこない」(he sells the sizzle but is short on the steak)すなわち立派な演説はするが実行力がないと批判されたことがある、と回顧録に率直に記している。
 トランプ政権は、賛否はあっても具体的措置を実行してきた。懲罰関税発動、中国ハイテク企業への制裁、「航行の自由作戦」強化、台湾との関係促進、中共のスパイや協力者の摘発強化などである。言い換えると、トランプ大統領は、焼き加減に問題はあっても、着実にステーキを出してきた。今やその突破力を疑う者はいない。
 米議会で対中強硬策を打ち出してきたのも、トランプ氏と盟友関係にある共和党議員たちである。香港弾圧、ウイグル人迫害に対する制裁法、台湾との関係強化法を先導したのはルビオ(フロリダ州)、クルーズ(テキサス州)両上院議員ら共和党の保守派だった。
 8月10日、中共は香港問題に関して6人の米議員に制裁を科したが、全員が共和党である。これより先、ウイグル問題で4人の米政治家を入国禁止としたが、やはり全員共和党である。中共のテクノロジー獲得「千人計画」に絡むスパイ摘発を議会で主導してきた上院捜査小委員長のポートマン議員(オハイオ州)も共和党である。
 この間、民主党副大統領候補のハリス上院議員(カリフォルニア州)は目立った発信をしていない。

 ●見えない統率力
 バイデン氏は民主党のリーダーとして、また長年議会に籍を置いた身として、対議会統率力で大いにトランプ氏との差を見せつけねばならないはずだが、何ら動きがない。ハリス氏は大統領選に名乗りを上げたものの、極左に迎合しては中間派寄りに立場の修正を繰り返して陣営が内紛状態に陥り、結局、予備選開始前に撤退に追い込まれた。バイデン氏以上に統率力を欠く。
 現状では、バイデン氏は期待できない既知数、ハリス氏は期待できない未知数と言わざるを得ない。(了)