公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

中川真紀

【第1284回】中国が軍事パレードで新兵器を誇示

中川真紀 / 2025.09.08 (月)


国基研研究員 中川真紀

 

 9月3日、中国は抗日・世界反ファシズム戦争勝利80周年を記念し、北京で軍事パレードを行った。登場した兵器は100種類以上にも及び、とりわけ無人装備など「新領域」の兵器や、台湾有事における「接近阻止・領域拒否」(A2/AD)作戦に関連する兵器、さらには米本土に届く新型の戦略核戦力が注目された。

 ●新領域:無人・宇宙・サイバー・電子戦装備の多角化
 無人装備では、空を飛ぶ無人機(UAV)だけでなく、陸上を走行する無人偵察突撃車や、海上・海中で活動する無人艇、無人機雷敷設システム等12種類が公開された。またUAV、無人偵察車を操作する専用オペレーターが搭乗する装甲支援戦闘車も登場した。対UAV兵器としては、レーザー兵器や高出力マイクロ波兵器など5種類が確認された。攻守両面で無人装備の運用が進んでいることが窺える。
 宇宙・サイバー・電子戦に関する装備も各4種類、計12種類が公開された。戦場ネットクラウド車、宇宙地上ネットワーク車、情報融合車等の名称が付されており、地上、衛星、サイバー空間等で収集したあらゆる情報を融合・評価し、全部隊が瞬時に同じ情報を共有できるシステムと考えられる。

 ●A2/AD:迎撃困難なミサイルの長射程化
 A2/ADの関連では、低空で自律飛行する巡航ミサイル3種類、マッハ5以上で飛行する極超音速ミサイル3種類が公開された。グアム・キラーと呼ばれ、米領グアムに届く射程を持つ弾道ミサイルDF-26の新バージョンであるDF-26Dが極超音速弾道ミサイルとして登場した。他のミサイルも新型が多く、長射程化や精密化等がなされていると思われる。
 これらのミサイルは探知や迎撃が困難なため、台湾有事の際、第2列島線(小笠原諸島~グアム)方向から来援する米軍の「接近阻止」(A2)や、既に第1列島線(南西諸島~台湾~フィリピン)内に存在する在日米軍等の活動を妨害する「領域拒否」(AD)に有効である。A2/AD能力を向上させるミサイルとして誇示したのであろう。

 ●戦略核戦力:三本柱の完成
 空中発射型の核搭載弾道ミサイルJL-1、射程を延伸した潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)JL-3、新型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)DF-61が登場し、米国に対する核の三本柱(トライアド)が完成したと誇った。また、戦略核戦力の大幅増強に繋がるICBMサイロ装填用と見られるDF-31BJも公開された。
 中国は今回のパレードにおいて、国内的に国威発揚を図ると共に、米国に対して台湾有事への介入を強く牽制し、台湾へは米軍来援を必ず阻止するという決意を示した。パレードはアピール的要素が強く、登場した兵器が現時点で全面的に配備されているというわけではない。しかし、この中国の決意に対し、我々は兵器の性能や配備・運用状況等に注視すると共に、わが国の防衛力整備を検証していくことも必要であろう。(了)