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西岡力

【第747回・特別版】韓国の民主主義は死んでしまうのか

西岡力 / 2020.12.14 (月)


国基研企画委員兼研究員・麗澤大学客員教授 西岡力

 

 12月10日、韓国国会で高位公職者犯罪捜査処(公捜処)法の改正案が与党民主党の強行採決により成立した。公捜処は高位公職者だけを捜査対象にする大統領直属の捜査機関だ。野党「国民の力」党議員らは喪服を着て、韓国の民主主義が死んだと激しく抗議した。
 改正のポイントは公捜処長候補の推薦にあたり野党の拒否権を廃止することだった。昨年12月に激しい反対の中で成立した当初の法では、候補推薦委員8人のうち野党委員が2人いて、全体で7人の賛成で2人の候補を選び、大統領が最終的に1人を任命するとされていた。今回の改正で6人の賛成で推薦できるようになり、政府与党が自由に人選することが可能になった。

 ●反政権の検事総長逮捕も
 来年1月には公捜処が発足する見通しだ。公捜処の捜査対象には検事と判事の全員が含まれるので、公捜処が最初に逮捕するのは尹錫悦検事総長ではないかと言われている。また、公捜処は高位公職者に関わる事件の優先捜査権があるので、尹検事総長の率いる検察が現在捜査中の政権中枢に関わる事件を公捜処が持って行ってしまうだろう。
 文在寅大統領が検察改革の先兵として任命した秋美愛法相は、これらの捜査に対する露骨な妨害工作をすでに展開し、尹総長を懲戒委員会にかけた。さすがに世論の反発があり、尹氏は次期大統領候補として与野党の政治家を押さえてトップに躍り出た。文大統領の支持率は30%台まで落ちた。
 しかし、尹総長は朴槿恵、李明博の前元大統領ほか両保守派政権の元高官多数を「積弊清算」という文政権の政治路線にしたがって逮捕・起訴した中心人物だ。だから、尹総長は検察組織防衛のために文政権と戦っているのであって、韓国の法治、自由民主主義のために戦っているとは言えない。一方、保守野党は朴前大統領弾劾への賛否で大きく分裂し、4月の総選挙で惨敗した後、弾劾賛成の中道派が多数派となった。昨年数十万の反文在寅デモを組織した在野の保守勢力も、中心となった教会が新型コロナウイルスのクラスター(感染者集団)を発生させて力を失った。

 ●日本に迫る地政学的危機
 文大統領とその側近は、韓国の主流勢力を代えることを公約して権力を握った。彼らは韓国の主流勢力を、反共、親米に化けて生き残った親日勢力と位置づけ、建国時にできなかった親日派処断をいま自分たちが行っていると考えている。自分たちが正義を独占していると信じているから、公平なルールの下で与野党が善意の競争を行うという自由民主主義を受け入れない。
 公捜処の発足により、反日を旗印にした全体主義国家が我が国のすぐ隣で成立するかも知れない。自由民主主義の防衛線が38度線から釜山まで下りてくれば、韓国軍60万が日本の仮想敵として出現する。このような地政学的危機が目の前にある。韓国の自由民主主義勢力が復元力を見せるのか、このまま全体主義に飲み込まれるのか。息をこらして見詰めている。(了)