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工藤豪

【第752回・特別版】夫婦別姓の議論は家族の形が問われている

工藤豪 / 2020.12.28 (月)


国基研企画委員・日本大学文理学部非常勤講師 工藤豪

 

 今月25日に閣議決定された第5次男女共同参画基本計画において、一つの焦点となっていたのが「選択的夫婦別姓」に関する議論である。最終的には、「家族形態の変化及び生活様式の多様化、国民意識の動向等も考慮し、夫婦の氏に関する具体的な制度の在り方に関し、戸籍制度と一体となった夫婦同氏制度の歴史を踏まえ、また家族の一体感、子供への影響や最善の利益を考える視点も十分に考慮し、国民各層の意見や国会における議論の動向を注視しながら、司法の判断も踏まえ、更なる検討を進める」という表現に至った。

 ●実家の姓が絶えるという問題
 夫婦別姓に関する議論は、結婚時の氏をどうするのかという範囲にとどまらず、「家族」はどうあるべきかという問題である。たとえ国際社会の中で夫婦別姓が主流であったとしても、それが日本社会に適しているか否かは慎重に検討しなければならない。婚外子割合の動向に示されるように、日本の家族が諸外国と比べて異質な側面を持つことは周知の事実である。
 また、夫婦別姓に関する議論の中で、実家の姓が絶えることを懸念し、氏を変えたくないために結婚を諦める人がいて、それが少子化の一因になっているという指摘がある。もし、選択的夫婦別姓が認められることになれば、「別姓を希望する人」と「別姓を受け入れられる人」のカップルは結婚への障壁が取り払われるが、「別姓を希望する人」と「別姓は受け入れられず同姓を希望する人」のカップルが新たな問題に直面するのではないだろうか。
 さらに、実家の姓が絶えることを懸念して別姓を希望する人は、子供の姓も重要な問題となろう。子供の出生時に親が姓を決定するのではなく、子供が成長してから、子供自身の意思・希望を尊重して姓の問題を解決する方が望ましいのではないかと考える。

 ●現代の日本家族における特質
 戦後、日本の家族が「家」から「核家族」へ変化したという見解が通説となってきたが、家族社会学者による実証研究の成果として、結婚時の親との同居確率は低下したものの、途中同居の増加により既婚子の最終的な同居率に大きな変化がなく、構造的には直系家族制(「家」)が持続するとともに、同居が姓の継承と強い関連をもつことが示唆されている。それと同時に、育児・子育てなどにおいて、従来から行われてきた妻方の親による援助が、きょうだい数の減少と結婚初期における同居率の低下によって顕在化している。
 すなわち、現代の日本家族は、姓の継承という系譜的側面は夫方を重視しながら、育児・子育てなどの援助関係においては妻方との関係性を重視するという形でバランスを保っていると捉えられる。社会として夫婦別姓という家族の形を選択することは、このような夫方・妻方のバランス関係にどのような影響を及ぼすのか、そのような視点からも考えなければならない問題なのである。(了)