公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

有元隆志

【第771回】公明党は国土保全強化に協力せよ

有元隆志 / 2021.03.08 (月)


産経新聞月刊「正論」発行人 有元隆志

 

 安全保障上重要な土地の買収対策として政府が検討している土地利用規制法案をめぐり、連立与党の公明党が慎重姿勢を強めている。国境離島、防衛施設、原子力発電所の周辺地域が外国資本によって買収され続けると、安全保障上重大な問題が発生する。公明党は同法整備をはじめ、国土保全と国防の強化に積極的に協力すべきだ。

 ●予言した論文
 中国系資本が何らかの形で関与した疑いのある安全保障上重要な土地の買収案件は全国で約80カ所に上る。産経新聞によると、この数字は政府関係機関の調査で判明し、昨年10月に首相官邸に報告された。政府は法整備へ向けた動きを強めた。
 政府案では自衛隊施設や原発など重要施設周辺の約1キロを「注視区域」とし、命令違反に対する懲役刑などの罰則を盛り込んだ。
 昨年秋から政府の有識者会議と並行し、自民、公明の両与党への説明も行われ、検討作業は順調に進んだかに見えたが、2月になって公明党に変化が起きた。今日の事態を予言したのが、国境離島問題に長年取り組んできた姫路大学特任教授の平野秀樹氏だ。平野氏は月刊正論1月号に寄稿した論考で次のように指摘した。
 「規制の動きを始めようとすると、タイミングよく関係議員のゴシップ記事が流れたり、(中略)検討作業そのものが骨抜きにされる」「『見えざる力』の方が次第に力を増す中、日本社会の上層部が取り込まれはじめている可能性が否定できない」
 実際、公明党の検討会座長だった遠山清彦元幹事長代理が新型コロナウイルスの感染拡大阻止のための緊急事態宣言下、東京・銀座での深夜会合が発覚し、2月1日に議員辞職に追い込まれた。それまで党内の慎重論を抑えてきた遠山氏が去った後、慎重意見が相次ぐようになった。遠山氏の行動は是認されるものではないが、平野氏が言うように「見えざる力」が力を増した。
 呼応するかのように、リベラルメディアからは「戦前の(軍港や軍用機飛行場周辺への立ち入り等を制限した)『要塞地帯法』を想起させる」「警察国家のような統制強化」といった慎重論が出る。安倍晋三前政権のとき、集団的自衛権の限定行使を可能とした安全保障関連法整備の際、野党やメディアの一部が「戦争法案」と反対したのと同じ構図である。

 ●海保を所管する公明閣僚
 本来、公明党は国境離島問題に最も危機意識を持っておかしくない。尖閣諸島の警備を担う海上保安庁を所管する国土交通相を5人出しているのが公明党だからだ。現在の赤羽一嘉氏も公明党所属だ。中国・海警局所属の公船は昨年1年間で過去最多の333日間、尖閣周辺に接近し、領海侵入も繰り返した。警戒・監視にあたっているのが海保で、逐次その報告を受けているのが赤羽氏である。
 公明党は国連平和維持活動(PKO)協力法、安全保障関連法などの重要な安保政策で、党内の慎重論を説得し協力してきた。遅きに失したとはいえ国土保全に向けた動きが出るなか、それを骨抜きにするような動きをみせるべきではない。(了)